「本作の本当のテーマはこのホロドモールではありません本当のテーマは真実を隠すことの罪ですそして赤い闇の本当の意味」赤い闇 スターリンの冷たい大地で あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
本作の本当のテーマはこのホロドモールではありません本当のテーマは真実を隠すことの罪ですそして赤い闇の本当の意味
ロシア軍のウクライナ侵攻が始まり50日が経ちました
本作は、そのウクライナでちょうど90年前に起きた恐ろしい悲劇が題材です
第二次世界大戦勃発の5年前、1932年から1933年にかけてホロドモールという、当時ソ連だったロシアによって人為的に引き起こされた大飢饉のことです
ロシアにより、ウクライナは食料や種子にいたるまで強制的に収奪されたのです
その結果、大規模な飢饉が発生し、330万人から数百万人ともされる餓死者・犠牲者を出した「飢餓ジェノサイド」のことです
虐殺ジェノサイド
21世紀のウクライナで今同じことが起きています
しかし本作の本当のテーマはこのホロドモールではありません
本当のテーマは真実を隠すことの罪です
ロシアの猛攻の前に2日もすれば首都キーウは陥落してしまうだろうと言われていました
しかしウクライナはこれを撃退したのです
ロシア軍は一旦撤退し、その後には砲火や爆撃で破壊された町々が残されていました
そしてそこには罪もない普通の民間人の人々が多数殺されて道端に放置されている光景でした
本作の劇中で、1933年3月、90年前のウクライナに入りある地方駅で降り立った主人公が目にする光景
駅のホームに誰か倒れているのに、もう誰も気にしていない
町中には道端に行き倒れた人々が点々ところがっている
それは恐ろしいことに、つい数日まえテレビのニュースでみた光景と同じものなのです
しかし、この90年前の虐殺については、本作の三分の一程度の分量でしかありません
では残りは何に割かれているのか?
それは告発です
真実を隠すことの罪の告発です
数百万人もの人々が犠牲になった虐殺が行われたのに、その真実を隠す事の罪です
そしてその真実を隠すことに手を貸す罪です
真実をごまかすことの罪です
その真実から目を背け、なかったことのように振る舞うことの罪です
単にホロドモールを引き起こし、記者を殺してまでそれを隠そうとしたスターリン支配下のソ連への批判
それだけの映画では決して有りません
21世紀の現在進行形の告発なのです
誰を?
本作では西側のモスクワ駐在記者達です
ソ連の秘密警察から狙われる命欲しさ
ソ連との経済的な利権獲得のうまみ
何よりも、人類の明日の理想と信じる共産主義への期待故に、ソ連にどんな問題があっても目をつむるその行為にです
ジャーナリストとしての背信行為です
人間としての腐敗です
しかし、彼らは良心の呵責にさいなまれ、阿片パーティーで憂さを晴らし、退廃の限りを尽くして良心が痛むのを忘れようとしているのです
そして終盤には、ニューヨークタイムズのある女性記者は、主人公が行ったホロドモール告発記事は根も葉もないフェイクニュースであると署名記事を書くように、ピュリツアー賞受賞に輝いたことのある米国人のデスクから強制されるのです
「赤い闇」という秀逸な邦題はそういう意味なのです
劇中、不気味な小説をタイプする男は現代では有名なジョージ・オーウェル
タイプしているのは彼の出世作「動物農場」
彼も社会主義者として、主人公ジョーンズの告発を認めることができずに否定するのです
しかし次第に認め、ホロドモールをヒントにしてこの小説を書いているのです
あの不朽の名作「1984」はこの4年後のことです
そして、そのような恐ろしい真実の報告を受けてもなお、戦争を恐れてそのようなことはないと目を背ける英国の外務大臣
冒頭、主人公はこの外務大臣と居並ぶ外交委員会のお偉方の面々に、台頭著しいヒトラーに面会してきた報告を行っています
彼は、ヒトラーとゲッペルスと直接会話して得た結論として、ヒトラーは第二次大戦を引き押すことは間違い無いと警告します
しかし、お偉方はみんな呆れて笑い飛ばしてしまうのです
そんな事が現代に起きる訳がないと
そしてそのブリーフィングは途中で打ち切らてしまい、彼は外交顧問の職を失うのです
同じことが、21世紀のウクライナ戦争で起きてはいませんか?
米国が最初に声をあげ、ロシアの侵攻があると警告しました
しかしロシアはもちろんただの軍事演習だと否定しました
世界中のマスコミも戦争まではないだろうとか言っていました
戦争が始まり、民間人や病院などに被害が出だし動かぬ証拠の映像が流れた時、それはウクライナ側のフェイクニュースだとロシアは反論しました
驚いたことにSNSでは、そのロシアの主張を信じる論調の意見が多く見られることです
もちろん圧倒的にロシアへの非難です
しかし民間への被害はフェイクニュースだという
記事やネットの書き込みが日増しに増えていっているのです
キーウ近郊の虐殺のあった町々の惨状
恐ろしい虐殺現場の様子
それをウクライナ側がやったことだと否定する声です
ロシアに軍事行動をさせたウクライナの方が悪いという書き込みまであります
果ては、有名でかなりの影響力がある人物がテレビでウクライナは早く降伏すべきだと言い放ったのです
2022年4月14日、ロシア海軍黒海艦隊の旗艦モスクワが撃沈されたという大ニュースが駆け巡りました
するとやはりロシアは火災と嵐で沈んだだけだと主張しました
ネットでは呆れたことに、もともと沈んですらいない、すべてがフェイクニュースだと強弁する書き込みが多数でました
もちろんロシアのネット工作部隊の書き込みもあるのでしょう
しかし、普通の一般人でもそう信じる人が一定数いるようです
ロシアが侵略してくる!
プーチンはウクライナだけでなく、東欧、北欧の国々も狙っている!
そんなこと声高に言えば、たった3ヵ月前なら、
ネットウヨだと言われ罵倒されたでしょう
劇中の主人公は職まで失ってしまいました
21世紀でも、各国のお偉方は本作の冒頭の会議と同じように、都合の悪い真実から目を背けて、見ないようにしたのです
そして戦争を起こるにまかせてしまったのです
今もなお、戦争に巻き込まれたくないから、ウクライナには小型の兵器、ヘルメット、防弾チョッキぐらいしか支援していません
ウクライナがロシア撃退に必要だと切望する戦闘機や戦車は与えないでいるのです
出兵なんか絶対無理!と言っているのです
本作で描かれたのは、真実から目を背けて現実をみようとしないことが、大惨事を生み出し、戦争を引き起こすのだという警告です
本作は2018年の製作
ウクライナ、ポーランド、英国の共同製作です
ウクライナは本作のホロドモールだけでなく、2014年にあったクリミア紛争で散々な目に合わされましたから本作を作りました
その時も、どこの国も結局助けてくれなかったのです
ポーランドは第二次大戦でドイツとソ連(ロシア)に東西から侵略されて国が無くなってしまった歴史があることから製作に参加しました
カティンの森事件という2万2千人以上ものポーランド人がソ連(ロシア)軍に虐殺され森の中に埋められたのは、1940年の4月頃のことでした
その虐殺命令に署名したは当時のソ連(ロシア)の指導者スターリンです
彼は本作のホロドモールを命令した人物でもあるのです
主人公が穀物を収奪され荒廃したウクライナの町で見上げた巨大な看板に描かれたあの人物です
ポーランドが今必死にウクライナから避難してきた人々を支援しているのは明日は我が身だからです
というか戦前のポーランドの領土は、今のウクライナの西側の四分の一程度にまで広がっていたのです
今の国境線は戦後勝手にソ連に決められたものなのです
だからポーランドの人々にとってはウクライナの戦争は自国の戦争なのです
そして英国
ヒトラーの侵略意図に気付いていながら、宥和的な対応と話合いで解決できるとヒトラーをつけあがらせたのは英国です
主人公はジャーナリストではありません
彼はあくまで首になった外交顧問としての責任を果たそうとしたのです
英国がヒトラーとの戦争に苦しむのは見えている
苦境に陥ったとき、スターリンの正体を知る前の自分と同じようにソ連と手を組むべきだと政府首脳は考えるはず
もし英国と米国がスターリンを支援してしまうことになれば、ヒトラー以上の強大な悪魔を生み出してしまう!
それ故に彼は必死にホロドモールを世界に告発しようとしたのです
スターリンとは手を組むな!
奴は悪魔だ!と
それが一度は英国外務大臣の外交顧問になった者の責任を果たすことだからです
それなのに彼の告発を聞かず
ヒトラーとの第二次世界大戦に苦境に立ったとき、英国と米国はスターリンと手を組み彼に巨大な支援を与えさらに巨大にして東ヨーロッパをスターリンに進呈してしまったのです
英国にはその責任があるのです
つまり本作の製作意図は、これ以上プーチンをつけあがらせてはいけない
プーチンを現代のヒトラーにしてしまうぞ!という警告でもあったのです
しかし結果はこの通りです
21世紀の私達は、真実から目を背けて戦争を招き寄せて、21世紀のヒトラーとしてプーチンを育ててしまったのです
「戦争はウクライナだけの問題とみなされていたが、実際には欧州で原油・天然ガス価格が高騰し、イギリスでも食料価格が実に高くなった。私たちの臆病、ためらいをウラジーミル・プーチン露大統領に利用された。」
これは英国のエルウッド下院国防委員長がつい先日あるメディアに語った記事の引用です
日本はウクライナから遠いアジアの国です
関係ないことでしょうか?
先日、北方領土で夜間砲声のような大音響が一晩中なり響き、暗い夜空を閃光が沢山光るのが、根室から見えたそうです
そして日本海からはロシア海軍の潜水艦からミサイル発射の演習をしたとロシアの発表がありました
北朝鮮はいまにも核実験を再開しそうな雲行き
尖閣諸島ではまたも中国による領海侵犯が繰り返されたそうです
ウクライナの次は台湾に中国が攻め込むとも言われています
「ウクライナ戦争は世界の安全保障がいかに急速に悪化するかを示す警鐘である。と同時に、自己満足に浸り、自分たちの価値を守るための投資を怠るとどうなるかという警告でもある」
これも英国のエルウッド国防委員長の言葉です
私達日本人もまた目の前の現実から逃避しているのではないでしょうか?
真実に目を背けてはならないのです
アジアでヒトラーやスターリンを育ててはならないのです
アジアで戦争が起こるならばそれは、私達日本人が真実から目を背けているからです
赤い闇に包まれてはいないでしょうか?
最後に
本作は実話です
主人公は実在の人物です
映画的な誇張や演出があるかも知れません
しかし、あからさまに真実をねじ曲げてはいないと思われます
地元のレンタル店ではずっと貸し出し中でした
世間の関心の高さが伺えます
あき240さん
あき240さんが投稿された映画「 TENET 」のレビューを読ませて頂きました。
クリストファー・ノーラン監督の強い警告が込められた作品なのですね。
機会が有りましたら、必ず観ますね。
21世紀の今、国から命令されたなら、一般市民を無差別に撃ち殺し、市民が避難している建物にミサイル攻撃をし得る、という事事は衝撃でしかありません。
今晩は
哀しくも、素晴らしいレビュー拝読させて頂きました。
旧ソ連から続く、ロシア民族のほぼ同一民族に対する、ジェノサイド。
何故にロシアを統べる男は凶行に走っているのか。
ロシア国民は、彼の男の凶行により多数の自国民の兵士(息子たち)が死んでいく事に対し、何故に声を上げないのか(あげられないのか・・。)
近代史ではヒトラーに続く蛮行を止められない国連。
今作は、独裁政治の恐ろしさ(中国、北朝鮮然り)を感じた映画でありました。
愚かなり人類。週末時間は今、何秒になっているのでしょうか・・。
あき240さん
コメントへの返信を有難うございます。
すみません。。映画「TENET」、未だ観ていません💦
監督はどう予言されていたのでしょう?
21世紀の今尚、制圧した国の領土として治める事が出来る事に違和感を覚えます。
こころさん
赤い闇は21世紀でも立ち込めているようです
世界中で、そして日本でも
それが震える程に恐ろしいです
世界は逆転しつつあるようです
ノーラン監督がTNETで予言した通りでした
あき240さん
一部の国以外、ロシアの軍事侵攻そしてジェノサイドを嫌悪しているにも拘らず、ロシア軍が尚も非情な侵攻、爆撃行為を続けているという事実が、辛く恐ろしいです。