「ウ・ク・ラ・イ・ナ に行っちゃイヤ 💋」赤い闇 スターリンの冷たい大地で カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
ウ・ク・ラ・イ・ナ に行っちゃイヤ 💋
ホロドモールはウクライナ語で飢餓による殺害という意味。ジェノサイドということばを考えるきっかけに。
英国首相ロイド・ジョージの元私設秘書(外交顧問)であった若い優秀なジャーナリスト、ガレス・ジョーンズの実話に基づいた映画。第二次世界大戦前の1933年のお話。彼はヒトラーに独占インタビューをした経験ももつ。世界的恐慌のさなかにあって、むしろ羽振りがいい(ルーブル高維持)ソ連。ドイツが再び戦争を仕掛けてくると危惧するイギリスではソ連と同盟を組んだ方が得策であると意見するものも出てくる。急激な近代化を推し進めたスターリンにもインタビューしたいとジョーンズはニューヨークタイムズのモスクワ支局長のピューリッツァー賞受賞経験のある大物記者ウォルター・デュランティーを頼って、単身モスクワに乗り込む。しかし、デュランティーは完全にスターリンに蹂躙されていた。ジョーンズがモスクワに立つ前に電話で連絡を取った友人の記者ポール・グレブは背中に4発もの銃弾を浴びて死んでいた。グレブはジョーンズと同様にソ連繁栄の秘密を取材していた。ジョーンズはデュランティーの部下のエイダ・ブルックス(ヴァネッサ・カービー)に探りを入れる。ソ連当局から日常的に監視されているエイダの口は重かったが、ジョーンズのひたむきさにこころ動かされたエイダはジョーンズに「ウ・ク・ラ・イ・ナ」とつぶやく。ウクライナ行きの汽車に乗り込んだジョーンズは彼の行動を監視する男をうまく巻いて、途中で貨物列車に滑り込む。しかし、貨物列車には異常なほど飢えた人たちがひしめきあっていた。ジョーンズがミカンをリュックから出すと異様な視線を向けてくる。ジョーンズが急いでミカンを食べ、皮を捨てると奪い合って皮を食べた。ジョーンズの母親(元・英語教師)はかつてウクライナのスターリノでウェールズ出身の実業家の孫の家庭教師をして暮らしていた経験をもつ。母との繋がりのあるスターリノ駅で降りたジョーンズはモスクワ行きの穀物を貨車に乗せる現場に出くわす。銃を持った軍人が、痩せて力の出ない民間人に重い穀物の袋を運搬させている。ジョーンズも手伝わされるが、カメラのシャッターを切らずにいられなくなったジョーンズはスパイとみなされ、発砲される。奇跡的に追跡を逃れて、凍てつく雪原をさまよい、ゴーストタウンと化した村にたどり着く。そこは極度の飢えに苦しむ生地獄だった。飢えた子供たちが歌う童謡の歌詞がすごく気持ち悪くて怖い。ジョーンズもそのうち、木の皮を食べる。母のかつて暮らした家の幻覚を見る場面に引き続き、もっともショッキングなシーンが。
主人公のガレス・ジョーンズは英国、米国の新聞にウクライナでの見聞をリリースする。すぐさま、ウォルター・デュランティーによりニューヨークタイムズでジョーンズの記事は否定される。負けていないジョーンズはニューヨークタイムズに辛辣な反論記事を展開する。英国、米国の様々な新聞に飢饉に対する記事を載せ続けるがソ連外務大臣から英国首相のロイド・ジョージに向けてジョーンズがソ連に二度と入国させない旨の通達が送られる。ロイドは「英国の経済が破綻寸前の時に勝手が過ぎる。君は一線を越えた。」と激怒したという。1935年、30歳の誕生日の前日、29歳でジョーンズは3発の銃弾を浴びて何者かによって殺されてしまう。
一刻でも早く飢饉に苦しむ人々を救いたいという彼の信念は打算で動くものたちにとっては脅威なのだ。彼の運命は実に悲しく、絶望的。ジャーナリストにはその正義が強いほど自己犠牲がつきまとう。正義の脆弱さを補うにはジャーナリストたちの結束が必要だ。ピューリッツァー賞受賞記者に騙されてはいけない。消されかけた功績に焦点を当てたこの映画は、いかに平穏な時代に、恐ろしい怪物がいつまた我々の生活、生命を脅かすかも知れないことへの警鐘であり、この、かりそめの平穏は偉人たちの屍の上に築かれたものであることを訴えている。
ジェノサイドもその認定は主権国家ごとに違ってくるという現実。同盟国どうしは認めない。第二次世界大戦以前のジェノサイドは語られないタブー。
ガレス・ジョーンズ役のジェームス・ノートンはストーリーオブマイライフ/わたしの若草物語に出ていたらしいが、印象が弱い。
エイダ役のヴァネッサ・カービーはワイルド・スピード、ミッション・インポシッブルなどのハリウッド大作に出ているので、ちょっとバランスが悪い感じ。ヴァネッサ・カービーのプロフィール写真が隣の気の強い奥さんにちょっと似ていて、個人的には萌えませんでしたけど、監督、撮影監督、音楽監督の意気込みは大変評価します❗