「都市、異国情緒、群像劇の絡み合いに、シェルフィグらしい筆致が光る」ニューヨーク 親切なロシア料理店 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
都市、異国情緒、群像劇の絡み合いに、シェルフィグらしい筆致が光る
一つの街を舞台に群像劇を紡ぐーーーそんな趣向の映画は腐るほどある。だが、大都市ニューヨークとその片隅のパッとしないロシア料理店を掛け合わせ、そこに集う人々の人生を慈しみ深く浮かび上がらせる手法には、北欧出身の名匠シェルフィグらしいタッチが光る。切実な理由を抱えてすがるような思いで逃げ込んできた母と息子たち。彼らの視点をすくい取り、地べたから見つめた都市の姿をありありと立ち上げていく様が興味深い。時に物語は胸をえぐるようなシリアスさにも傾くが、シェルフィグ監督はいわゆる”絶望”を描く人ではない。むしろ本作では、人と人とが微かなハーモニーを奏でるくだりで、ほんのりと幸福な温もりを灯す。夫にまつわる顛末をもっと丁寧に描くべきとの声もあろうが、逆に考えると、この温もりの映画に彼の居場所などなかったのだ。シェルフィグの作家性でもって彼を強制退場させたかのような早急な展開に、私は思わず笑ってしまった。
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