「盛り込みすぎて伝わり辛い」ニューヨーク 親切なロシア料理店 しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
盛り込みすぎて伝わり辛い
この映画には、2つの核となる場所と、1つの主軸となる出来事がある。
1つは、タイトルにあるロシア料理店。新しく雇われたマネージャーのマークを中心に、スタッフ達、常連客達が出入りする。
2つめは、教会。看護師のアリスが行う炊き出しやセラピーの会に、登場人物達が関わっていく。
そして、主軸となるのが、夫のDVから逃亡中のクララと2人の息子。この家族の苦難を中心に、2つの場所を繋いで、マークとアリス、その他の登場人物達、各々の問題や心の傷が、互いに寄り添う事で癒されていく、という群像劇なのだが…。
どうにも話の座りが悪く、スッキリできない。
DVに怯える子供達と、2人を連れて路頭に迷うクララの悲惨さが強調され、これは思いの外社会派の作品だったか…と思うと、裁判の経緯はスルスルと端折られてしまって、拍子抜け。
それなら、「傷付いた他人同士、どうして思いやれないのか」とのマリアの台詞通り、絆や隣人愛というハートフル面に帰結させるつもりかと思いきや、微妙な恋愛エピソードが挟まり、気が付くとカップルが2組。各自の問題もふんわり解決しているので、あれ?これもしかしてラブストーリーでした?と、腑に落ちない心境のまま終了…。
原題が『The Kindness of Strangers』。言いたい事は解る。
社会制度からこぼれ落ち、傷付き失われていく命や心がある。ギリギリの所でそれを掬い上げる事ができるのは、傍にいる個人個人の小さな優しさではないか。
恐らくそういう事だろう。が。
例えば、教会の方に視点を絞って、ガッツリ社会問題として、思い遣りや労り合いの大切さにクローズアップする。
或いは、ロシア料理店を舞台に、様々な立場、人種の人々の、人生の交錯と助け合いを、舞台脚本風の群像劇として見せる、など。
脚本や演出の工夫で、もう少し解りやすく面白い作品にできたのではないだろうか。