「【心に傷を負っている人々が、心に傷を負った”見も知らぬ他人”を気遣う姿の尊崇さを描いた、”粋”なヒューマンドラマ。特に後半は、じんわりと人の優しさ、温かさを感じる事が出来る作品でもある。】」ニューヨーク 親切なロシア料理店 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【心に傷を負っている人々が、心に傷を負った”見も知らぬ他人”を気遣う姿の尊崇さを描いた、”粋”なヒューマンドラマ。特に後半は、じんわりと人の優しさ、温かさを感じる事が出来る作品でもある。】
ー 夫が子供に暴力を振るう事に悩む妻。
セイフティネットの網から、零れ落ちてしまった人。
悪人を弁護する事で、心に悩みを抱える弁護士。
愛する人に裏切られた人。
弟がオーヴァードーズで亡くなり、自らもその絡みで刑務所に2年間入り、出所後は人嫌いになった人。
ロシア料理店の経営が上手くいかない人。
・・この作品は、このような心に傷を負った、閉塞感を抱える人々が、不思議な縁で繋がり、仄かな希望を持って前を向き、再び歩み始める物語を描いている。-
・クララ(ゾーイ・カザン。・・映画製作も手掛ける才女。ポール・ダノ君は元気かな。親戚のおじさん状態でハラハラしながら鑑賞。)は警官でもある夫が二人の子供、兄アンソニー、弟ジュードに暴力を振るう事に悩み、バッファローからN.Yへ逃げてくる。
けれど、お金も知り合いもなく、生活にも困窮する日々。
そして、時間潰し、且つ、観光名目で訪れる”ニューヨーク公共図書館”。
-辛いよなあ・・・。警官の夫には本当に腹が立つが、彼も”病気なのだろう・・、暴力衝動を抑えきれないという・・”
図書館を”避難所”として過ごすホームレスの人々を描いた「パブリック 図書館の奇跡」が、脳裏を過る・・。
愚かしき、父の命令で弟に暴力を振るわされる兄アンソニーに対して、弟のジュードが言った言葉、”大丈夫・・、(お兄ちゃんは無理やりやらされているのだから・・)赦すよ・・。”と言う言葉が心に染みる・・。-
・アリス(アンドレア・ライズボロー:凄く好きな女優さんの一人である。「オブリビオン」で、美しい肢体に魅了され、「バードマン・・」「ノクターナル・アニマルズ」「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」と、私好みの作品に出演している。)は看護師で、ER(Emergency Room:救急救命室 本では読んでいたが、物凄いストレスを伴う業務であるそうである・・。私人としては、尊崇の念を抱く職場。現在、”Covid-19”の対応をされている方々も同様である。頭が上がりません・・。)も伴う病院で働き、炊き出しボランティアもし、癒しの場所(ケア)でも、人々の心の傷を聞いてあげている。
天使のような人だが、彼女も哀しき4年前の出来事があった。
- だから、あんなに傷ついた人々に優しいんだね・・。自分の生活を犠牲にしてでも・・。-
・仕事を2度も馘首になり、ホームレスになったジェフ(ケイレブランドリー・ジョーンズ ちょっと、残念な人を演じたら、近年No1.の役者さんである。)が、凍死寸前に助けられ、看護師アリスの元で、嬉しそうに働く姿。
・マーク(タヒール・ラヒム)はキャビアだけが売りの、ロシア料理店で働くシェフ。過去、弟を麻薬過剰摂取で亡くし、自らも2年間それが原因で、刑務所に・・。
オーナーは、ティモフェイ(ビル・ナイ:うーん、英国紳士・・。)。
経営に苦労しているが、ジェントルマンである。
オーナーの人柄が、従業員にも伝わっている。
例えば、パンを盗んだクララを見つけた従業員が、それを咎めず、
”パンを持とうか・・”
と問いかけ、一緒に従業員用のエレベーターに乗るシーンなど。
◆人嫌いだったマークが、自ら務めるロシア料理店のテーブルの下に隠れていたクララたちにそっと、食事を置くシーンがとても、良い。
クララの下の子、ジュードが雪の日に、屋外で過ごしたために、低体温症になってしまい、アリスの勤める病院で手当てを受けている時に、クララたちが一時的に料理店に避難したシーンである・・。
そして、警官であるDV夫から、アリスがジュードを守るシーン。
◆マークは、クララに”自分の部屋に来いよ”と言い、連れてくるが、長男のアンソニーは最初、母を守るために、マークに向かっていく・・。
- 自分の父親の所業が、重なったのだろうか・・。-
◆クララとDV夫との訴訟で頑張る ”悪人を弁護する事に疲れた”、マークの友人の弁護士ピーターも良い。
ー 彼が心に傷を負ったマークをアリスが催す、”癒しの場所”に連れて行っていた事は、キチンと、序盤で描かれている。-
<多少、ストーリー展開、及びアリスを主とした人物造形が粗い部分があるが、
”人の情けの大切さ” を随所で感じさせてくれる作品。
ニューヨークの冬の寒さは、本当にしんどいが(本当ですよ・・)、その寒さを少しだけ和らげてくれるハートフルなヒューマンドラマ。
”粋”で”気骨”ある人物とは、心に傷を負いながらも、マークやアリスのような行動を自然と出来る人の事を言うのだろうな・・、とも思った作品。>
◆2020年12月16日 追記
-有難い事に、キチンと当方のレビューの誤謬を指摘して頂いた方のご指摘を受け、ED→ERと修正しました。お恥ずかしい限り・・。-