「醜悪を愉しむ」屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
醜悪を愉しむ
汚物を美味しく味わい、悪臭を胸いっぱいに嗅ぐわい、腐乱物とウジの大群に全身を浸らせ、存分に愉しむ映画。
気持ち悪くて気持ち良い、癖になる感覚。定期的に摂取しないと生きていけないのよ。
大嫌いで大好きな汚いトイレも堪能できた。
スクリーンに映し出されるモノの全てが隙の無い汚さで満たされていた。
人体が出しうる限りの最大値の不潔と悪臭を感じる。
堕落を極め、馬鹿を極め、醜さを極めた人間たち。
「こうはなりたくないものだ」と思いつつ、正直言って見下しつつ、自分も同類であることをふと実感しつつ。
フリッツ・ホンカの殺人はただひたすらに滑稽で無様で、快楽も計画性も美学も何も無い。
女を引っ掛け、役立たずな自分に苛立ち、嘲られ腹立ち、気付いたら殺している。その繰り返し。
「殺人鬼」と呼ぶことすらアホらしい生粋の頭の悪さと性欲の強さはむしろ個性的か。
被害に遭う女達だって、こう言っちゃなんだけど相当激ヤバである。全員歩き方が変。
フリッツも被害者たちも含め、ゴールデン・グローブに集う人たちの濃厚なキャラクターはおぞましく、それでいてコミカルで魅力的だった。
お気に入りは難聴の元将校。
わりと優しい人だと思っていたけれど、彼のある意味鬼畜の極みな行動にはだいぶ興奮した。
たぶん一番まともなのに可哀想な呼び名を付けられたアヌス店員も好き。掃除婦とその夫の捻れ具合もなかなか。
人間なんて所詮肉塊であることを痛感した。
重力に逆らわず、階段に打ち付けられる肉の音。
どんな人生を積んでこようと、命が尽きれば本当にただの肉と骨でしかないんだなと。
ではこの肉体のどこに命があるんだろう。
命はどの瞬間に消え去るんだろう。
生命体と肉塊の差はどこにあるんだろう。
そこまで考えて、分からなくなって、考えるのをやめた。
映画でも小説でもとにかく人が死ぬ作品を多く消費しているので、たまにこういうループに陥ってしまうんだよね。
フリッツ・ホンカという人間とその周りをかなり忠実に描き、奇妙で醜悪な生活を体感できるアトラクションのような作品。
後ろの人の足なのか前の人の頭皮なのか分からないけれど、リアルに嫌な臭いを嗅ぎながらこの映画を観られたのがまた良かった。もしかして4DXですか?
どこまでも腐臭に溢れた中で、唯一ペトラだけが美しく存在していた。
フリッツのみならず、この映画を観た者の全員が彼女をミューズとして見ていたと思う。
出てくる時間は少ないけれど、彼女が現れるだけでなんだかホッとしてしまうじゃない。
ペトラは最後に何を見ていたんだろう。
人生の儚さを見て、次の学期からはちゃんと勉強するようになってるといいな。何にもなれないのって結構しんどいと思うよ。