「ノスタルジーと秘密」ある船頭の話 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
ノスタルジーと秘密
物語はほぼ、山あいの川の両岸で綴られる。
近代化が進む日本で、最後まで開発から取り残された山奥の集落をつなぐ「渡し」の「船頭」の話としてだ。
ストーリーは、新しく川に架かる橋の建築中から完成後まで。
しかし、この映画には、橋が完成したら船頭の仕事はもう要らなくなるといったノスタルジー以上の濃密な、そして、多くの秘密を孕んだ物語が散りばめられていた。
上流から傷を負って流されてくる少女・フウ。
なぜ流されてきたのか。
村を去った人間がトイチに残したマリアの肖像画。
この山奥の集落は隠れキリシタンの里だったのか。
仁平の父は、多くの山の生き物を頂いて、そして自身が遺体となって、山の奥で動物たちに食べられることを望む。
これは、本当に個人的な希望なのか。狩を生業とする者たちの半ば鳥葬のような宗教儀式ではないのか。
そして、まるで、動物に食べられた仁平の父の魂のように舞うホタル。
トイチが、「川を渡してやってるのは俺なんだ。橋なんかできなければ良い」と考えたことを告白するようにフウに話すのは、まるでキリスト教の告解のようでもある。
トイチはフウにマリアを見たのではないか。
どうして、トイチは自分の村を出なくてはならなかったのか。
もしかしたら、マリアの肖像画自体がトイチの持ち物で、トイチ自身が隠れキリシタンなのではないか。それが理由なのではないか。
また、終盤のトイチが動物の皮を扱っている場面は、日本の差別・被差別の問題を想起させる。
そして、近代化によって様変わりする村人たち。特に、源三の変わりようは激しい。
最後の事件で、フウは、実は近親相姦の因習のなかにあって、そして、途中で密かに語られていた一家殺害を、復讐の衝動でやってしまったのではないかと思わせる。
トイチを見て狂ったように泣き叫ぶフウは、キリストに助けを求めるようにさえ見える。
船頭小屋に火を放ち、もう一つ新たな秘密を抱え、トイチはフウとともに、舟で渡しを後にする。
二人が幸せであれば良いと願う。
近代化に向かう日本の、100年と少しぐらい昔の話だろうか。
人と自然。
近代化と因習。
こうした対比のなかで、隠される秘密、告解、そして再び隠される秘密。
ずっしり見応えのある作品だった。
インセストの件、中々斬新な考察、畏れ入りました。
父親が細野晴臣、子供が永瀬正敏という配役も斬新でしたねw
川の精霊がナレートする”種明かし”は、アイデアとして面白かったのに、ストーリー全般にそのファンタジー感が薄かったと思ったのは私だけでしょうね 失礼しました。
ワンコさん
今晩は。鋭い考察、私はあそこまで考えが及ばなかったです。
又、流麗な文章も変わらず素晴らしいです。
公開後、2ヶ月も経っての観賞でしたが美しくも観る側に多様な解釈を委ねる作品で心に残りました。
他の数名のレビューも良かったなぁ。不毛な一口レビューが横行する中で今作品のワンコさんのレビューは一服の清涼剤でした。