「あの台詞。」ロマンスドール ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
あの台詞。
今こうして感想を書いている傍から涙目になっていく、、、
そのくらい、自分の感情を鷲掴みにされてしまった今作。
冒頭の光景から、最後の台詞まで、この夫婦の10年間が
ぎっしりと、濃密に、静かな慟哭と、幸せな涙で彩られる。
ラブドールといえば、近年にも何本か面白い作品があった
が、今作はそのどれとも違う。職人映画であり、恋愛映画
でもあり、後半ではベッドシーンがほとんどの展開となる。
できれば、いわゆるセックスレスの夫婦に観てもらいたいと
心から思った。夫婦は語り合わなければ、触れ合わなければ
まだまだ分からないことだらけの生き物。それを埋めるには、
手探りの状態で、ままごとのような生活内で互いを曝け出し、
みっともない姿を見せ合いながら今どうしたいかを言い合う。
思い遣ることで「嘘」をつき、「秘密」を抱え、疑心暗鬼の
夫婦が、「離婚」を踏み台に向き合い、その先へ進んでいく。
きたろうのコメディ、逮捕されたピエールのまさかの逮捕劇、
渡辺えりのおかみさん役も面白く、ラブドール製作現場での
喜怒哀楽がめっぽうリアルに楽しめる。あまり精巧に作ると
捕まってしまうなんて、、、そうなんだ~と大笑いしながら、
完成したドールを見てボロ泣きしてしまう。妻を想いながら
試す夫の目から涙がポツポツ落ちていくシーンなど号泣必至。
古くは南極一号とか、ダッチワイフ、なんて言われていた頃を
懐かしく思い出しながら、これは歴史的にも長く重宝されてきた
逸物なのだと悟る。どんな破格値になっても精巧品は飛ぶように
売れていくのらしい。彼女と称して連れ歩く男性もいるのだから、
生身の女性と違って文句や愚痴をこぼさず性欲消化に長けている
ところが最高!なんてところだろうか。男性型ドールもあるって。
おそらく自分がここまで感情移入した理由は、自分自身にある。
それがよく分かった。セックスという行為に対する男女の感覚を
女性監督が男性目線でスルリと描いて見せた。それが胸に沁みる。
なによりも最後の、あの台詞。
あの気持ちを心から受け止めて誉め言葉と思えたら、一端の女だ。