劇場公開日 2020年1月24日

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「尊い映画。タナダユキ監督に完敗。」ロマンスドール まつこさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0尊い映画。タナダユキ監督に完敗。

2020年1月26日
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尊い…この映画は尊すぎる…
タナダユキ監督の最高傑作と言っても過言じゃないのではないでしょうか…。間違いなく「百万円と苦虫女」「ふがいない僕は空を見た」には並ぶレベルの傑作だと思ってる。ここ5〜6年のタナダユキ作品の中で一目瞭然で群を抜いての素晴らしい作品。(勿論他のも良いのですが)
ストーリーも、一人ひとりのキャラクターも、展開も、雰囲気も、セリフや言い回しも、全部良かったなぁー。この映画も予告編で想像する内容よりも50倍くらい面白かった。
高橋一生と蒼井優がメインキャストと言う時点で「浮世離れした凄い俳優陣が日常では有り得ない素晴らしい愛の詰まったエピソードや表情を見せてくれるんでしょうな」と(常に鬱屈している私は)思ってしまうのですが…蓋を開けてみれば、色んな過去・背景・人間性を持ってる人達が生々しく生きてるのがベースとなっているので、話の展開や人の行動にも納得してしまうし、出てるキャスト陣の素なんじゃないか?と思わせるようなナチュラルなセリフの言い回しがユーモラスな部分が多くて、自然と笑ってしまったりいつのまにか涙が止まらなくなったりして、やっぱ最初に思っていたような内容からは物凄く良い意味で裏切られ、そして引き込まれます。それぞれのシーン全てに監督やスタッフ達の愛を感じました。
キャストの使い方というか配役も絶妙ですねホント…。メインの2人。あれだけ色んな異性と恋に落ちたり好かれたり嫌われたり、様々な役柄を演じてきて、映画・ドラマ好きの中には2人の過去作品の想い出が頭にちらつき過ぎてロマンスドールを見るに当たってもそれが邪魔するんじゃないかと思う人もいると思うけど、この作品の中での2人が、0から恋に落ちて好き合って結婚して…その過程を見ていくにあたって最初から一挙一動に目が離せず、この"2人の世界"に没頭して見入ってしまうぐらい、2人ともそれぞれの今回の役柄の生の表情や言動を作り出し生きてくれているので、余計な心配はする事ありませんでした。その周りの人達も皆んなそう。主人公がひょんなことから働き始める工場の師匠や従業員、社長…一人ひとり、これまでの歴史がそれぞれにあり、いくつかの困難も発生していくけど、この仕事で食べてくと決め、長年の経験や周囲への信頼と共に、仕事への努力や皆んなとのユーモアも交えた笑い合える関係性が、見てるこっちを笑わせたり泣かせたりして心に響くものが沢山ありました。きたろう演じる師匠は最高だったなぁ…!
高橋一生ときたろうとのやり取りのシーンは、あるシーンがめっちゃ面白かった。そして、素の表情にしか見えなくなって一瞬混乱した笑。
私の中での高橋一生は、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」や「直虎」の時のような、良い俳優やな…!っていうドキドキは最近失われかけていて、このまま自分の中からは消えてしまうんじゃないかなんて思ってしまっていたけど、この映画では最高の高橋一生だった。あくまで私の中でだけど。いや、でも多分高橋一生史上最高値を叩き出してるんじゃやいかな?と言い過ぎでなく思う。役どころとしては、美大を出てフリーターとしてダラダラ金の無い生活を送っていたが、先輩に(ちょっと騙された形で)ラブドール製作をしている工場の仕事を紹介されて何となくその仕事を始める…という役で、凄くしょうもない奴でも無く、何でもそつなくこなすイケメンの役でも無く、本当に普通の男の役なんですが…これがまた良いんだ。開始5分で、この役がぴったり板についてるのが分かる。でもこういう普通の人の役がナチュラルに違和感無く出来るってのが役者冥利につきるんだとも思う。そんな普通の男が、仕事上でたまたま出会う蒼井優演じる、きれいで人柄の良い女との出会いと進展のシーン。作品の中ではわりと冒頭のほうの10分程度の1シーンなんだけど、展開されてく一秒一秒が印象に残ってドキドキして、こんなん映画とかドラマで観たことないなーと興奮したシーンだった。(運命の相手って言うのは、その人と心の距離が近づくときって、何かと縁やタイミングや周りの何気無い行動によりイタズラに且つ一気にグッと近づくんだよね…という事を思い出した。結構割りかし誰でもそういう恋愛経験あると思う)
蒼井優は毎度ながらとても良かった…。今回は美人で気立ての良い、夫の為に家事をそつなくこなし周囲の人からも本当良い子だね、と好かれる女の人の役だったけど、そんな中にもちょっとしたところでへへへって笑い出すシーンとか照れるところとか…なんかもう、いや私が彼女を大好きだからの贔屓目もあるかもだけどすんごい可愛くて、とにかく可愛かった。日常のシーンも恥ずかしいシーンも悲しいシーンも嫌なシーンも気まずいシーンも、全て良かったし、ちょいちょい滑稽だなって思える言動があって、そこがまた魅力で、タナダユキ監督様様だなぁと思った。「百万円〜」といい、変な話この監督は蒼井優の使い方がめちゃくちゃ良いですね。今回も最高でした。
お仕事ドラマ的な面でも、"何かを製作する職人"の努力や技術が、めちゃくちゃかっこよくて、ものづくりをする人やクリエイティブな仕事してる人ってやっぱマジでかっこいいな…と再認識させられました。最初はお金欲しさになんとなしに始めた仕事が、自身も結局職人気質の本性が出てきて没頭していく主人公…普通の男が仕事をしている間はかっこよくなる瞬間ってたまんないですね。勿論男だけじゃなく女も然りですが。
そしてそして、忘れちゃならないこの作品の良いところのひとつ…音楽ですよ!!never young beach!!この作品を何倍にも良作にすることに成功させた大きな要因だと思う。ネバヤンの挿入歌「ららら」と主題歌「やさしいままで」。"映画に寄り添ってる音楽"の100点満点の正解パターンだった。(例えば、「あゝ、荒野」のBRAHMANとか、「ハルフウェイ」のSaryuとか、「グッド・ストライプス」の大崎トリオとか、「マイ・バック・ページ」の真心ブラザーズ+奥田民生とかとか…分かる人は絶対に分かるよね) 良い映画を観終わった後って、「面白かった」ていう感想は残るんだけど時間が経つ毎にどんどん1シーン1シーンを忘れてしまうし、観ている時の高揚感とかも記憶から薄れていって、私はそれが悲しくて切ないなぁといつも寂しい気持ちに陥る。(美味しいもの食べてる時に、この美味しい味が口から消えるの嫌だな…飲み込みたくないな…と思うのとちょっと似てる)。そんな気持ちを思い出させてくれるのが使われた音楽や主題歌だから、特に映画に寄り添って、作品と同じ世界観の音楽や主題歌って本当に嬉しいよ。助かる笑。
ネバヤンが高橋一生の弟のバンドというところも更に感慨深いし余計に心に残る作品になってしまう…ズルいよ…ズルい兄弟やなあー。笑

この作品が観れて本当に幸せだった。
人間の滑稽さと、生きてく上での幸福と辛さが絶妙に絡んだ、最高の味わい深い映画でした。完敗です。

まつこ