「ダニーの成長物語。」ドクター・スリープ image_taroさんの映画レビュー(感想・評価)
ダニーの成長物語。
『シャイニング』の原作も本作の原作も読んではいない。キューブリックの『シャイニング』に驚嘆し支持する者である(原作に忠実だというドラマ版も観たが、クオリティは映画版には遠く及ばないとの印象を持った)。
…という前振りをしておいてから、本作の感想を述べる。本作の内容を端的に表現すれば、「“シャイニング”を食い物にする怪人たちとの闘い」であるが、『シャイニング』の“お化け屋敷”の話と比べれば、本作の筋書きは“スーパーナチュラルな能力合戦”と言って差し支えなく、随分と毛色が違うことは間違いない。が、きちんと前作の世界観を共有しているし、リズム感や空気感は紛れもなくキューブリックの映画版を引き継いでいると言っていい。全体的にテンポもゆっくりで、ディテールを丁寧に描いており大変好感が持てた。ちなみにディレクターズ・カット版は、長くなった分一層キューブリック版のテンポと空気感に肉薄していると言って良い。
役者達の好演も目を引く。抑制を効かせたユアン・マクレガーの演技は重ねた年齢の魅力も上乗せされて上々だし、レベッカ・ファーガソンの不気味さと美しさも素晴らしい。最も特筆すべきは、アブラ役の子役、カイリー・カラン。あどけなさの中にも凛とした強さを感じさせる彼女の存在感は、本作の要石と言って良い。
原作には無いと言われる展望ホテルのクライマックスは、もはや旧作のフラッシュバックのオンパレードであって、あれほどの造形を再現した力量に驚嘆せざるを得ない。何十年も後になって、これほどの続編を観られるとは夢にも思わなかったが、この物語がダニーの成長物語という形できちんと語り尽くされたことに、心底嬉しく思う。よりたっぷりと味わうことができる30分ほど長くなったディレクターズ・カット版を強く推奨します。