劇場公開日 2019年10月4日

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「絶望の先の狂気」ジョーカー ジョイ☮ JOY86式。さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0絶望の先の狂気

2019年10月9日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

期待して待っていたジョーカーをTOHOシネマズの朝の回で鑑賞。

ストーリーは至ってシンプル。
コメディアンを夢見て下積みをしているアーサー(後のジョーカー)。彼は精神疾患を持ちながらも、母親を献身的に介護する心優しき男だった。そんな彼が度重なる不幸で心を狂わせていき、あの狂人・ジョーカーになるまでが描かれる。

アーサーはどこにでもいそうな男だ。夢を目指しながらも成功できず、チャンスを掴み損ね。貧困の中、親の面倒を見るうちに社会から阻害されてしまった。
そんなドロップアウトしてしまった彼に対する世間の目の冷たさ。残酷さを、視聴者は嫌と言うほど突きつけられる。

真面目に生きようとしても報われないこの世界で、心を病んでしまった人間は誰でもジョーカーになりうる。
だからこそ、この映画はヒトを惹きつける。

それを一見すると人好きそうなおじさんにしか見えないホアキン・フェニックスが演じる。だからこそ、狂人に転落していく彼の人生が他人事とは思えないのだ。

騒動を起こし、世間から注目され快感を覚え、更にエスカレートしていくジョーカー。
彼の歪んだ自己顕示欲と承認欲求は、今のSNSの一部ユーザーにも垣間見ることができる。

この映画はフィクションでも、根底に流れる問題は現実と何1つ変わらない。
いやそれどころか、格差が進み未婚率が高まり犯罪率が上がっている今の社会こそゴッサムになりつつある。
だからこそ見る価値がある映画と言えよう。

映画とは本来、受動的なコンテンツだ。
見て、聴いて、感じる。
だが本作は違う。
見た者が実人生をアーサーに重ね、己の精神と向き合うことになるいわば写し鏡。

だから、フィクションとして割り切れない怖さがそこにある。

この映画を見て何を感じるかは人それぞれだろう。
だが己の中に息づく"ジョーカー"に気づいてしまった人間も少なからずいるはずだ。
それこそが、この映画の危険性であり、同時に最大の魅力と言える。

悲劇とは、他人から見れば喜劇に他ならない。
それこそがコメディの本質だ。
世界は想像以上に残酷で、出口はまだ見えそうにない。

ジョイ☮ JOY86式。