「誰の中にも「ジョーカー」はいるのかも知れない」ジョーカー s kさんの映画レビュー(感想・評価)
誰の中にも「ジョーカー」はいるのかも知れない
悪のカリスマは、どのように生まれたのか。
バットマンシリーズの人気ヴィラン、ジョーカーにスポットを当て、
彼が「ジョーカー」そのものになるまでを描いた作品。
近年の映画では珍しく、吹替版の公開が無い。
その理由としては、やはり本作の印象を決定付ける「ジョーカーの笑い声」の為だろう。
吹替にした時のズレは、きっと作品そのもののズレに繋がる恐れがある。
それ程に、主演のホアキンの演技は凄まじい。配給側の英断とも言えるだろう。拍手。
本作の大きなテーマの一つとして、
純粋な悪意は、本人にとっての真実。と言ったメッセージがあるように思う。
主人公のアーサーは、一つずつ、自身の手にしているものを奪われていく。
タイトルロゴの出方、オープニングシーンは、正に「奪われるもの」を象徴するカット。
あまりにも格好良いロゴの出し方だ。
生活の中で、自身の「突発的に笑ってしまう」障害と闘い過ごしながらも蔑まれ、
信じていたものや、信じたいと思ったものが崩れていき、
彼自身のみが残った時、心のままに生きた時、どのような思考になるのか。
どのような行動を取るのだろうか。
最初から壊れていたのか。
それとも、奪われて、失った事で、己のみの正しい姿を見つけたのか。
人は、もしかしたら最初から壊れていて、
それでも社会や周りとの繋がりによって、
世界の価値観による「正しさ」の上を歩こうとしているのかも知れない。
彼自身が元々障害を抱えている為、真実と虚構が混じる為、
本当に奪われているのかも分からない。
しかし彼は奪われる。全てを失う。最後には自ら手放して、そして「笑う」。
その繋がりを失った時、本当の人間と言えるものが現れるのだとしたら。
そんな事を考えさせられる作品でした。
何より、ラストシーンの暴動のカットは、
アーサーの主観を通してみた世界では、
あんなにも暗く汚いゴッサムとは比べ物にならないくらい美しい。
その感情の動きが純粋と呼ばれるのなら、
きっと誰の中にも、やはり「ジョーカー」は存在するのかも知れない。
余談だが、
本作を観るに辺り、やはりダークナイトは避けて通れない。
明らかにダークナイトのヒース版ジョーカーへのリスペクトを感じるシーンがあり、
ジョーカーと言う「悪意」への制作側の熱を感じる。
何よりも、バットマンシリーズを触り程度でも知っているだけで、本作の世界観にかなりの奥行が生まれる。
逆を言えば、界隈の常識を使ったネタが多い為、バットマンをまるで知らない人は、若干なりとも世界感の観点で飲み込みが遅れてしまう。
ただ、ダークナイトは面白いが……ビギンズがツマラナイから……。
ラスト前で、バットマンでフィギュア化もされている某有名シーンもきっちり入れるあたりも、ファンサービス色が強い。
本当の意味で楽しむために、最低でもビギンズ・ダークナイトの5時間視聴をお勧めする(内2時間半は苦行だろうが……)