「最初から最後まで彼の心に寄り添うものはいない、まさしく"喜劇"だ」ジョーカー 櫂谷 切さんの映画レビュー(感想・評価)
最初から最後まで彼の心に寄り添うものはいない、まさしく"喜劇"だ
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元々「ダークナイト」のヒース・レジャーが演じるジョーカーが大好きだったので、今回の映画は見る前から不安の一言でした。
今作のジョーカーには歴代に見る過剰なまでの自信を持っていません。
序盤はただの「心を病んだ優しい男」がどうやってジョーカーになるんだ、このままじゃあ一人の男が不幸になるまでの社会風刺物語で終わるぞ~と思ってしまうぐらいゆっくりねっとり「アーサー」のつらい日々を描いています。
同僚には裏切られ、自分に優しくしてくれていた女性は妄想、最後の頼みの綱である母親は実は自分と同じ精神病で……。
アーサーがこの物語で殺す人間はすべて彼に害をなしている(あるいはこれから笑いものにしようとしている)人ばかりです。
いっそのこと開き直って復讐する悪鬼羅刹のごとく殺しをしていてくれたらスッキリしたかもしれませんが、彼がどのシーンでも起こす笑いは大声で泣き続けている人が時々吸う深呼吸のように痛々しい音。
人々は彼に対して「なぜ殺す」ばかりで彼にしでかしたことも悪いと思ってすらいない。
暴動を起こした民衆たちが踊る彼をヒーローにように崇めるシーンでさえ、民衆と彼の気持ちには大きく剥離が生じている。
ダークヒーローになっても報われない、最後の病院の逃走シーンはまるでコメディのようで最初から最後まで彼の独りよがりの「喜劇」を感じた映画でした。
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