よこがおのレビュー・感想・評価
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『家族ゲーム』と『正義の味方』
音楽を殆ど使うことなく、普段の生活で誰もが聞き慣れたはずの日常に溢れてる音が効果的に使われていて、画面の印象を超えた恐怖を感じさせられます。終盤のあの場面では子供達のはしゃぎ声すら恐怖の予兆として、絶対何かあるぞと緊張感を強いられました。
ありきたりなサスペンスホラーじゃ敵わないような演出だと思います。
心理描写というか、頭や理性ではコントロールできない言動を時には、いやしょっ中かな、してしまう人間の不可思議さについても説得力がありました。
が、しかし、これも人間の(私の?)わがままさ故ですが、甥っ子のことや真相を知ったサキちゃんの反応などについても、明確でなくてもいいから、もう少しヒントをくれたらなぁ、というもどかしさも残りました。
日常の音をこんなにも効果的に使っている映画、ということで、森田芳光監督の『家族ゲーム』(全員横並びの食卓での咀嚼音やフォークの音)、割と最近の『ジュリアン』(非常階段の足音や金属の擦過音)が思い出されました。
それにしても、マスコミの方々(全員とは言わないけれど、決して少なくない数の方々)って何を根拠に、自分が世の中の正義を代表して悪を暴くのだ、という態度が取れるのでしょう。
人の目
訪問看護師の主人公市子の生活が甥が起こした犯罪の影響で変わっていく話。
仕事を辞めた主人公が美容院を訪れるシーンから物語が始まり、時間がさかのぼって事件前後のパートへと展開して行く。
ことが起こってからの基子の嫉妬や踊らされたマスゴミの異様っぷりが非常に不快で気持ち悪くて良い感じ…なんだけど、時系列を弄くり過ぎて話がしっくり入ってこない。人間性が違い過ぎるからか、主人公がちょっと薹が立っちゃってるからストーリーを受け入れられなかったのかも。
幻視だか妄想みたいなものもあったしね。
空回りと惨めさと虚しさややるせなさは悪くないけど、変化の切っ掛けは何だった?あったのかも知れないけれど、自分には良くわからず…。
作品そのものにしっくり来ないモヤモヤが残った。
反対側の「よこがお」
基子が暗い公園で街灯を背に語りかける場面がある。
顔だけが真っ黒で話し声だけが聞こえる異様な感じだ。
僕たちは、表の顔とか、裏の顔といった表現をすることがあるが、実は、それは、どちらも正面の顔の半分で、裏も表もない、本人そのものではないのか。
半分黒で半分緑の髪の毛のように。
市子とリサ、基子の歪んだ愛情の二面性が中心となりストーリーは進むが、米田や辰男が関わることで、人間関係に複雑さ、いや、歪みが加わって展開する。
抑揚のない会話や、会話に似つかわしくない、けたたましくなるチャイム、車のクラクションが不釣り合いに大きく響き、「淵に立つ」で感じたようなイライラが止まらず、不条理な結末に一層の不安感が高まる。
影で真っ黒な顔で話す基子は、自分の本当はどっちでしょうかと、僕たちに謎かけしていたのだろうか。
不条理とは、偶然起きるものではない。
不条理の原因は、僕たちにも潜んでいて、いつの間にか、その沼に引きずり込まれてしまっているのではないか。
表の顔も裏の顔も実は、半分半分の顔で正面を向いていて、どっちも自分そのもので、その都度、「よこがお」を見せて生きているに過ぎないのではないか。
そして、そんな「よこがお」を持って使い分けているとしたら、それによって惹き起こされる不条理から、僕たちは決して逃れられないのではないだろうか。
しかし、それもある意味、希望的観測だ。
基子は二面性の果てに、穏やかな「よこがお」を見せていたではないか。
不条理は、案外簡単だ。
自分は不幸で、他方は幸福なのだから。
人間関係の崩壊
筒井真理子の迫真の演技に引き付けられて圧倒された。裏切りや感情のもつれによる人間関係の崩壊を上手く表現している。心の葛藤がヒシヒシと伝わってきてクライマックスの横断歩道のシーンは心が激しく揺さぶられた。欲を言えばもっと激しい展開でもよかった。
2019-156
隠し事、裏切り、復讐
観終わってから、リサって誰?とキョトンとなってしまった。とりあえず頭の中を整理してみても、髪の毛は明るいブラウンのままだったし、途中からは白髪混じりだったし、湖の中に入っていくシーンでは緑色だった。善良な市民と善良ではない市民?交互となった動物園の会話(サイの勃起)の時系列がわからなかったことも一因か。それにマンションの一室が変わっていたのかもしれない・・・。と、書いてるうちに、ようやく冒頭の美容室が後からのことだと思えるようになってきた。ただ、時系列の詳細がわからない。
そんな主人公の筒井真理子。犬の遠吠えや犬の真似して匂いを嗅ぎまわるシーン、事件が起きてからは周囲の人間の目を気にしている様子など、とにかく色んな表情を見せてくれる。正直者だからこそ犯人は甥であるとハッキリ伝えたかったのに、基子によって拒まれる。その基子の独占欲の強さも意味深であり、池松壮亮演ずる米田との恋愛関係も高校時代から続いていたとは言うもののどこか怪しげ。個人的見解としては、幼少期の「裸で押し入れ」にという話やルームシェアの提案もあったので、基子は市子に対して恋愛感情が生まれていたのだと感じました。結婚するという話でショックを受けてたようだし・・・
サスペンスのパートでは、犯人が自分の甥だったというだけで、手引きしたんじゃないかと週刊誌に興味本位の記事を書かれてしまった市子。怒涛のように押し寄せる報道陣には憤りを禁じ得ない。こんな取材してるからマスゴミって言われるんだよね。これが発覚しただけで市子のここでの人生は終わったようなもの。追い打ちをかけるように基子が話を飛躍させてしまうという裏切り行為・・・。
とにかく、何も悪いことしてなくても加害者側になる怖さ。復讐のつもりで行った行為も残念な結果になったり、やるせない気持ちでいっぱいになる。それがラストのクラクション!うるさい!と思いつつもその後の疾走感でエクスタシーを感じてしまった・・・。
脚本が素晴らしい
役者さんが素晴らしいし、脚本もいいです。
ラストのクラクションとか、もう複雑な気持ちが伝わりました。
それぞれの伏線も、回収したものも、敢えて放置したものもあったように思います。全部、解明しなかったり。
この映画観た人と、語らいたくなる映画です。
憎しみ、悲しみ、苦しみ、妬み、復讐、後悔、嫉妬、愛しさ、疑い、悔しさ、恐怖、多彩な感情を感じる映画です。
それぞれの役者さんが、本当に持ち味を発揮してました!
怒涛のラストシーンに魂がえぐられる
主人公の心の叫びが聞こえるようで、彼女の中に渦巻く複雑な感情に、自分自身が飲み込まれてしまいそうな恐怖を感じました。
市子のエピソードとリサのエピソードが交錯して描かれるので、心理サスペンスとしてグイグイ引き込まれますが、人間という厄介な動物の心の軌跡を追うことで、気づくと、今まで全く知らなかった感情に辿り着いていました。
『万引き家族』の名シーンに、安藤サクラの泣きの芝居があると思いますが、
本作では、筒井真理子の笑いの芝居が素晴らしい。
これだけでも見る価値アリです!
空気ごと切り取ったような場面が大好きなので、
一つのシーンの中で、空気の変わる瞬間が見られるところも嬉しい。
-----ネタバレなしだと思っていますが、ここからは鑑賞後に読んでいただいた方が良いかもしれません----
“可愛さ余って憎さ百倍”と言うとチープに聞こえるかもしれませんが、
愛や信頼があればあるほど、裏切られたダメージは大きい。
でも、復讐心に駆り立てられているうちは、結局相手から逃れられない訳で…
そう思うと、加害者の本当の罪は、被害者に傷を負わせるだけでなく、その後もずっと、その存在事態が被害者を支配し続けるところにあるのかもしれない。
ではいったい、どちらが被害者で、どちらが加害者なのか?
もちろん主人公の市子は被害者なのだけれども。
でも、無意識に不器用な魂をひどく傷つけた事も確か。
そして、一人の相手を一心に思い続けるということに関して言えば、実は愛も憎しみも同じなのではないかと思えました。
どうしても無視出来ない強い気持ちに支配され、コントロール出来ずに自分を見失ってしまう。
やはり愛と憎しみは紙一重な気がしてきます。
モラルの外側で生きている動物たちは、大声で吠えて、羞恥心なく発情する。
人間だって動物なのに、秩序を守る為に無理矢理野生の部分を押し込めている。
奔放な動物たちの姿から、自分の中の動物的な欲求…モラルに押さえつけられた本当の自分が解放されて、ふと、普段なら話さないような会話が出てきたのだとしたら…。取り繕っても、そこには真実が隠れている。
そして、犬のように大声で吠える事が出来ない人々は、自分では消化しきれない感情を抱えて結局は暴走してしまう。
人間たちは秩序と引き換えに、厄介な生き物になってしまったのかもしれない。
“交差点を渡る前”には二度と戻れない二人だけれども、同じ長さの時間を、お互い一途に思い続けていた。
怒涛のラストは必見です!
静かに忍び寄る恐怖にビクビクが止まらない!
筒井真理子さんによる、筒井真理子さんのための映画でした。
彼女の良さが存分に発揮されていた神作!
何が凄いって、喜怒哀楽をここまで巧みに演じ切った人はなかなかいない。
笑ったり泣いたり、密やかに怒り、憎しみの心を忍ばせていく。
過去の優しいナースの姿と、現代の行き当たりばったりな淫乱女。
どちらの彼女もすごく魅力的で、過去と未来を行き来する間に、どんどん筒井真理子さんの世界に惹かれていく…。
こんな魅惑の女性なかなかいません。
彼女の演技に圧倒されました!
彼女が、なぜこんなにも魅力的に描かれていたのか?
それは、きっと監督の女性を描く描写がとてもうまいからに他ありません。
今回の試写会では、上映後に監督自ら登壇して頂き、この作品の魅力について、存分にお話しして頂きました。
監督曰く、もともと筒井真理子さんを主役にして作品を描こうと思ったとのこと。
その時は、3人の女性の殺伐とした内容を考えていたようですが、そうすると筒井さんの魅力が半減してしまうと思ったそうで…。
その為に、3人ではなく、1人の女性ともう1人の女性との関係を濃厚に描こうと考えたようです。
なるほど、確かに、筒井さんの魅力ある演技を引き出す為には、市川実日子さんの存在が欠かせなかったように思います。
加害者と被害者の関係を超えて、2人の感情が複雑に絡み合っていく情景がこの世界をどんどん震撼させていく…。
後半では特に、市川さんの存在にあっとうされていき、鳥羽だの立つ笑いが起きるのも納得の結末でした。
ハッピーエンドを期待するような作品ではもちろんありませんが、社会派の何かを訴える映画でもない…。
この映画で感じて欲しいのは、いつ何時でも、簡単に人は事件に巻き込まれて、思いもよらない人生を起こることがあるってことが言いたかったと、そう語る監督。
最近、見ず知らずの人が突然人を刺したり、放火したりする事件が多いから、自分もいつ何時事件に巻き込まれてもおかしくない…。
そんな、恐怖に気持ちが包まれてしまう、ちょっと人間不信になりそうな映画でした。
久しぶりに緊張しっぱなしの映画鑑賞でした。
面白い映画をありがとうございました(^^)
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