劇場公開日 2019年7月26日

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「「よこがお」それはけして見せたくはないもうひとりの自分。」よこがお レントさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「よこがお」それはけして見せたくはないもうひとりの自分。

2023年5月25日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

興奮

知的

難しい

戦争体験者の方の話を思い出す。その人には優しい叔父がいて、とても慕っていたという。しかし戦争で食糧難になった時、配給のトラックに多くの人々が殺到し、取り合いになった。そこで優しかった叔父が鬼のような形相で物資を取り合う姿をみてショックを受けたという。戦争がなければあんな叔父の姿を見ることなんかなかったはずだと。
人は普段見せない「よこがお」を誰しもが持っている。それを一生見せずに済む人も多いのかもしれない。

自らのあずかり知らぬことで順風満帆だった人生が足元から崩れてゆく恐怖、絶望感。自らのあずかり知らぬ原因だからこそ自分ではどうすることもできないし、容易に受け止めることもできない。

事件を起こしたのは甥であり、確かに親族であるものの、その生育には携わってはいない。幼少の頃のたわいもない戯れ一つで人格が形成されるわけでもない。
また、市子に恋い焦がれた基子の嫉妬心からくる市子への仕返しもあずかり知らぬことだ。すべては自身に身に覚えがないことでその築き上げてきた人生が一瞬で奪われてしまう。まさにエアポケットにはまったかのように。

原因の一端を担った基子へのささやかな復讐も結局は徒労に終わる。自分は何をしているのだろうか。市子はあまりにも愚かで不憫な自分自身を笑ったのだろうか。

時がたち、一番の根源である甥の身元引受人になった市子。今は心に平穏を取り戻した様に見える。
そんな時自分の人生を奪った基子が皮肉にも自分がかつてしていた介護士の姿で目の前に現れる。
車のアクセルを思わず踏み込む市子。あの長く響くクラクションは彼女の慟哭のようにも聞こえた。

そのあと何事もなかったかのように車を走らせる市子。サイドミラーに映る彼女の顔はいまも「よこがお」なのだろうか。

職場や利用者からの信頼も厚く、私生活も順風満帆な生活を送っていた市子が、ただ、復讐のために男と寝るという愚かな行為を行う。かつての彼女からはとても想像できない姿だ。
人間には確かに一面だけではない知られざる「よこがお」があるのだろう。長い人生でその一面を見せずに平穏に暮らすものもいれば、市子のように思いがけずその一面をさらけ出す羽目にもなってしまう。

順風満帆なころの市子と全てを失い復讐に狂う市子を交互に見せることで人の持つ多面性を見事に描いた。

レント
ミカさんのコメント
2023年5月25日

環境ですよね。今が第二次世界大戦中だったら私もこんな悠長なことは言えません。だから、環境でほぼ決まると思います。「elle」大好きです。

ミカ
こころさんのコメント
2023年5月25日

レントさん
コメントへの返信を頂き有難うございます。
剥き出しの感情を露わにせざるを得ない状況…。確かに、誰もが心穏やかに過ごしたいですよね。

こころ
こころさんのコメント
2023年5月25日

レントさん
戦争体験者の方の話、切ないですね。
誰もが生きていく為に必死だからと分かっていても、そんな姿を見たくはなかった。どちらも辛いですね。

こころ