ロンドン版「The King and I 王様と私」のレビュー・感想・評価
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思うところは多々あるけれど、ロンドン公演を追体験できた!
「王様の私」は1956年の映画版を見たことがある。あとはまったく不出来だったアニメ映画版。いずれをもってしてもあまり好きなストーリーではなかったのが正直なところで、名作ミュージカル映画の呼び声も高い1956年の映画版にしても、東洋の美をふんだんに取り入れた圧巻のミュージカルシーンに魅せられつつも、ユル・ブリンナー演じる国王がただの愚か者にしか見えず、その国王を次第に愛するようになるアンナの気持ちがどうしても理解できないまま、クライマックスの涙の別れも気持ちが乗らずに終わってしまったような感じだった。根本的に私は多分、ダメ男モラハラ男を愛の力で良い男に変えていくという設定に一切ロマンを感じないのだと思う。
ただ今回のロンドン舞台版。思ったより嫌な気分がしなかったのはケン・ワタナベ演じる国王が、ユル・ブリンナーが演じた国王のイメージよりはるかにユーモラスで、チャーミングで、なんだかとてもピュアに思えたからだと気付いた。渡辺謙さんのイメージに「チャーミング」も「ピュア」も全然似つかわしくない気がするのに、舞台上の謙さんは喜劇センスを発揮してとてもユーモラスだった。そのせいで横暴さが和らいで見えて印象が良かった。最初はタイ訛りの英語の発音に冷や冷やしながら見ていたのに、いつのまにかそんなことをすっかり忘れて見入ってしまったほど。そして加えてアンナ役のケリー・オハラがまぁ素晴らしかったこと!知的な美しさがアンナのイメージにもピッタリだと思うと同時に歌声の素晴らしさに大感動。歌声で言えば、タプティム役の女優さんも見事だったなぁ・・・。あぁ是非生で観劇したい!ととても素直に思った。とは言え、日比谷の大きなスクリーンだってまるで本当に舞台を見ているかのような大迫力で大満足だった。舞台公演の映画版作品はいくつか見てきたけれど、今回が一番臨場感があって、本当に舞台を見ているような印象を受けたのは、やっぱり映画館のスクリーンの質だったのかな?と思う。日比谷の大スクリーンはやっぱりすごかった。映画だということを忘れて何度も拍手を送りそうになった。
同時に気づいたのは、私が「王様と私」に違和感を感じるのは、なにも国王のモラハラぶりだけではなく、この物語自体が無意識に東洋の文化をどこかで見下していて、そのことに未だ誰も気づいていないということだった。イギリスから海を越えてタイにやってきたアンナの中に、タイで出会った人々が愚かで無知であったことを静かに笑っているような気配がどうしても感じ取れてしまうのだ。大元の原作小説「アンナとシャム王」が出版された1940年代を思えば無理もない話だとも思うし、そもそも実際のアンナにあたる女性がそこまでの影響力を持っていたわけではないらしいという話もあるくらいなので、真に受けること自体が違うのかもしれないが、あまりに無知で横暴な東アジアの国王と、それを時に厳しく時に献身的に教示する白人女性という構図が、現代の価値観で見ると実に居心地が悪い。どうしても白人の優越感を感じてしまうんだよなぁ、という感じではあった。
でもそれは元のミュージカルからスタンダードとなっている部分であり、この舞台版の欠点と言うわけではない。寧ろこの舞台版はその欠点を補うだけのチャーミングさがあったし、その舞台をスクリーンに臨場感と共に映し出してくれて、まるでロンドン公演に行ったかのような感覚を追体験させてくれる映画だった、と言う意味では、十分に満足の作品だった。というわけで星は4つなのです。
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