劇場公開日 2019年2月22日

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ロンドン版「The King and I 王様と私」 : インタビュー

2019年9月26日更新

渡辺謙がミュージカルの舞台「The King and I 王様と私」で感じた“理解し合える喜び”

写真/若林ゆり スタイリスト/馬場順子 メイク/筒井智美(PSYCHE)
写真/若林ゆり スタイリスト/馬場順子 メイク/筒井智美(PSYCHE)

渡辺謙が2015年にケリー・オハラとともに米ブロードウェイの舞台に立ち、第69回トニー賞の主演男優賞を含む9部門へのノミネートを果たしたミュージカル「The King and I 王様と私」。バートレット・シャー演出による本作は今年7月に東京・渋谷の東急シアターオーブでの来日公演も実現したが、チケットを入手できなかったという人も多いだろう。そこで朗報だ。ブロードウェイでの好評を受け、英ロンドンのウエストエンドで上演された18年の公演を撮影した映画が、9月27日から凱旋公開される。作品の魅力について、来日公演を終えた渡辺にたっぷりと語ってもらった。(取材・文・写真/若林ゆり スタイリスト/馬場順子 メイク/筒井智美(PSYCHE))

まずはブロードウェイからのオファーが来たとき、どのように受け止めたのだろう。

「アメリカで映画は何本もやらせていただいた後でしたが、やはり舞台だと、並大抵の覚悟ではできないじゃないですか。日本では舞台に出た経験が何度もありましたので、舞台の緊張感や『ミスできない』という感覚は知っていました。映像というのは、ミスショットの連続なんですよね。ミスショットを何十回と重ねた中での最高のモーメントを編集していくものなんですが、舞台はできるだけミスショットを減らしていくという作業。真逆なんです。『それを英語で? やれるわけないじゃん!』というのが最初の正直な気持ちでした(笑)。でも、ニューヨークのリンカーン・センターというのは、アメリカにおける(イギリスの)ナショナル・シアターのような(威厳のある)劇場。そういう舞台に立てるチャンスがあるなら『一生に一度くらいやってみるのもいいかな?』なんて、浅はかな考えが浮かんだんです(笑)」

(C)Matthew Murphy
(C)Matthew Murphy

「王様と私」といえば、ブロードウェイでこの役を当て、1956年の映画版にも主演したユル・ブリンナーの印象が強い。渡辺にとっても、やはりスタートはブリンナー版だった。そこから丁寧な稽古を経て、王のキャラクターを掴んでいったという。

「正直に言いますと、僕はミュージカルがそんなに好きじゃなかったんです(笑)。舞台ではこの作品を見たことがなかったので、映画を見直したら、『Shall We Dance?』まではいいとして、でもその後は、僕は何だか釈然としなかった。『何が言いたいんだ、この王様は? 何がしたかったんだ?』って、全く分からなかったんです。でも稽古場で、演出家のバートレットが僕を丁寧に導いてくれました。つまり、王国を維持していくため、次の代に国を託すために、自分は死ななければならなかった。それを発見できたことは大きかったですね。それはすごく孤独なことだし、ある種のジレンマを伴うことです。何かを変えようと思っても、自分1人で全部は変えきれない。自分の価値観としても、全てを受け入れるわけにはいきません。ならば、次の世代に託さなければこの国の未来はない。あるべき未来に自分の死が媒介すると気づいたとき、ものすごい孤独に襲われるんだと感じました。それで、このストーリーの意味を初めて理解できたと思います」

(C)Matthew Murphy
(C)Matthew Murphy

この舞台の魅力が渡辺の演じる王にあることはもちろんだが、王と出会い、その頑なさや習慣の違いに反発しながら人としての魅力に惹かれるアンナ役、オハラの圧倒的な歌、表現力に負うところも大きい。

「お恥ずかしい話なんですが、僕はケリーを全然知らなかったんです。稽古に入る半年くらい前、ニューヨークで読み合わせをしたときが初対面。歌は歌わなくていいから、全幕通して読んでみてくれと言われて。そのとき、ケリーが『Hello, Young Lovers』を鼻歌みたいに軽~く歌ったんです。それを聞いて『す、すごい……。このレベルは何だ!?』と(笑)。衝撃でしたよ!」

そんなオハラとの「Getting to know you」(『お互いを知り合う』の意、アンナが子どもたちと歌う楽しいナンバーの曲名でもある)は、非常に気持ちの良いものだったという。

「ケリーは歌だけじゃない、お芝居もすごいんです。とくにマインドの反射神経がすごくいい。僕は“トライ&エラー”の人なので、やりたいことは全部やりました。すると、客席にドッカンドッカンウケる。そしてその度に、ケリーはキレイに返してくれるんです。だから5年間やらせていただくなかで、相当進化したと思います。素顔の彼女は、オクラホマの田舎で育った素朴なお姉ちゃんですよ(笑)。すごく繊細な部分と、すごく勝ち気な部分、強い部分と、いろいろと持っています。それは俳優の特性だと思うんですけど、彼女はそれをすごくオープンに出してくれる。だからこっちも本気でぶつかっていけます。日本人的な思いやりもあるし、偉ぶらないし、リスペクトも持ってくれている。本当にやりやすかったです」

渡辺が演じる王は、ワガママで横暴だが、努力家でお茶目で子どもっぽくてチャーミング。そのさじ加減が絶妙だ。

「身内なんかは『(役)そのものですよね』とか言うんですよ。『ピッタリじゃないですか』とか。『何を言っているんだ、とんでもない!』って言いたくなりますよ、どれだけ一生懸命作り上げたか(笑)。でも好奇心や未知のものを面白がる部分は近いものがあると思いますね」

古い時代を描いた作品だが、どんどん多様性の増している現代だからこそ、『自分はどうあるべきか?』と悩む王の姿は、ますます共感を呼ぶに違いない。

「本当に、今の時代に響く、普遍的なテーマだと思うんですよ。国とか文化とか、習慣の違いによる衝突だって言われますが、基本的に人間って他者のことを100%理解することなんてできないわけですよね。それをどうやって折り合いをつけていくか、理解を深めていくかというのは、お互いを思いやったり信頼したり、コミュニケーションをしていくことでしか成立しません。王様とアンナはお互いの国や習慣を背負っていますが、最終的には個人と個人で心を開いて分かり合えるかどうか。いつの時代でも、それはずーっと求められ続けていることだと思います」

(C)Matthew Murphy
(C)Matthew Murphy

映画としてこの舞台が残されることは、渡辺にとっても「非常に嬉しいし、ありがたいこと」だという。

「きっと、舞台とはまた違った楽しみ方をしていただけると思います。劇場でそんなに良い席に座るのは難しいですからね。映画ならアップで見られますし、『Shall We Dance?』なんて、ステージの上にクレーンを載せて、迫力のあるアングルで撮ったりもしていますから。僕はこの舞台をやっているときは、1回ごとにできるだけフラットに(芝居に)入ろうと思っていました。アンナに『君がスクール・ティーチャーか?』というところから始まって、1回ごとに理解が深まって、それが全部帳消しになって孤独になり、また最後に気持ちが戻っていく。それをずーっと幕が開くたびにリフレインしていたような気がするんです。それをこうして映像に撮ってもらえて、何回でも同じものが見られる。舞台というのは二度と同じものはないわけですから、すごく良い機会をいただけたなあと思っています」

「The King and I 王様と私」は、9月27日から東京・TOHOシネマズ日比谷ほかで公開。

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