「紅を点す」おいしい家族 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
紅を点す
家族の形、幸せの形は必ずしも一定じゃない。
わかっていてもいざ自分事となると一気に難しくなってしまうそれを、カラッとした空気とテンションで描いてくれる作品。
ありのままの向こう側って、もうこれなんじゃないの?
帰ったら父が母になっていた。
小さな島国のさらに小さな島の町。ジトジトした偏見の予想など軽く吹っ飛ばす、全く気にせずあっけらかんと接する人々にまず嬉しくなる。
「#昭和レトロ」の可愛い洋服をナチュラルに着こなし、妙に似合って謎の色気すら感じさせるお父さん、ないし、板尾創路。好き。
料理をする手つきや日常の所作がとても両性的で良かった。
わざとらしく女性に寄るでもなく、めちゃくちゃオヤジなわけでもない。
以前の彼のことはわからないけど、きっと穏やかな人だったろうと思う。
お母さんのこともわからないけど、きっといつもお洒落で可愛らしく朗らかな人だったろうと思う。
橙花の困惑だってそりゃ当然。
「少数派は辛いよね」の捻れが好き。
家族や好きな人の新しい幸せを素直に願い祝うこと。簡単にできればいいけど、それが自分に寄れば寄るほど、今までと違えば違うほど、難しくなる。
「お父さんがお母さんになったら、お父さんはどこに行くの」「お父さんまでいなくなるのは嫌だ」
ひしひしと伝わってくる不安感に涙。
そもそもどうしてお母さんになりたいのか、お母さんになるとはどういうことなのか、なぜ和生と結婚したいのか、青治は事細かには語らない。
きっと説明できるようなものじゃない。
もっと曖昧で感情的で、自分でもよくわかっていないのかもしれない。
お母さんの服を着たら彼女を近くに感じたから。和生&ダリアがいると楽しいから。息子夫婦がいると楽しいから。失った幸せが戻ったように感じたから。
そんな感じで良いじゃない。
しっくり来るなら良いじゃない。
現実の世界もこのくらい適当で寛容であれば良いのに。
瀧が大好きなダリアと自らを可愛く着飾りたい瀧、二人のプリティさがとても良かった。
アイドルだからって白くなくて良いし、彼氏がフリフリ可愛くても良いし、夫が婚姻の着物着ても良い。
弾ける青春、可愛かったな。
私はあの入江はとても綺麗だと思う。
銀座で働いてイケメン旦那がいて、事情は分からないけどきっと色々とらわれていた橙花が終盤で見せる表情にホッとする。
自販機にポイっと入れちゃう結婚指輪。
結婚も離婚もおめでとうでありたいよね。できることならばね。
エビオのチャラ一途感にときめき、時折スベるコミカルシーンに笑い、優しくも弾けた映像表現に目を奪われた。
サムザナのアクセント的な存在感も好き。
カレーを手掴みで食べる。日本人ならだいぶ抵抗のあるそれを、軽々とやってみせる家族。本当ナチュラル。
性や人の多様性を描きつつ、それを湿っぽくメインに置かずに、あくまで個人の幸せや日々の楽しさにスポット当てた作りが堪らなく好き。
ありのままの自分とか、秘めたる癖とか、そういうのはとうに超えた、いっそ清々しいほどの映画。
世界がこうならと思わずにいられない。
どうしても自分の家族を思いながら観てしまう。もちろん全然違っているけど。
私は近い人の幸せを素直に受け止めるまでに時間がかかったから。
エンディングの曲がまた良くて、「どうでもいいよ、どうだっていいよ」の歌詞にヴェーヴェー泣き震えていた。
これから口紅をさすとき、この映画を思い出して涙目になってしまいそう。