劇場公開日 2019年9月20日

  • 予告編を見る

「海や空のように、どこまでも気持ちのよい映画。」おいしい家族 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5海や空のように、どこまでも気持ちのよい映画。

2019年9月23日
iPhoneアプリから投稿

どこまでも続く海や空のように、どこまでも気持ちのよい映画。
たまたま見た予告編に、とにかくびっくりした。ワンピースをさらりと着こなした松尾創路さん。お父さんがお母さんになる?!一体どんなバタバタが繰り広げられるのか…と思いながら本編を観た。
ところが。慌てふためくのは主人公・橙花だけで、本人はもちろん、家族も職場(父・青治は学校の校長先生)も、うるさ方の定番・親戚さえも、お母さんになった彼をあっさりと受け入れている。スカート姿で校門に立って爽やかに生徒にあいさつし、法事も黒のワンピース。周りの受け止めようで、どんなことも至極当たり前になるのだなあ…と、こちらもじわじわと解き放たれ、橙花と一緒に、島の生活に浸っていく。
そんな中、日々の生活に居心地悪さを抱えている存在が明らかになる。青治宅の居候・和生の連れ子ダリアのクラスメート、瀧。瀧の葛藤は、青治や和生、ダリアのものとは違うし、橙花のとも少し違う。けれども、それぞれに色々あるよね…ということを、本作は、鮮やかに、かわいく、さりげなく伝えてくれる。どこまでも、黒い感情はなく、やさしさやあたたかさがいっぱい。それが少しも嘘くさくない。そこがすごい、と今改めて思う。(ちなみに、一緒に観た3歳は途中で眠りこけ、8歳は「お腹すいたー」とつぶやいた。映画の世界をごく当たり前のものと受け入れられる子どもでよかったなーと思い、これからもそうあってほしいと願った。)
と、あれこれ、設定や筋書きについて書き連ねたが、映画の持ち味を生かした表現の豊かさにもふれておきたい。テレビドラマでは、ここまで説得力ある物語にはならなかっただろう。唯一無二の世界に引き込む、カラフルでリズミカルな画面切替と分割、音楽と一体化した物語の運び。私と上の子のお気に入りは、画面を横いっぱいに使った、真夜中のでんぐり返し。至福のラスト、結婚式に重なるところがニクい。もう一つ、ニヤリとさせられた「おまけ」のチョイスは、子には?だったらしく…コーヒーが飲める歳までお預けか。
悩める十代になった頃、2人にまたこの映画を観てほしいと思う。

cma