魂のゆくえのレビュー・感想・評価
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イーサンはそろそろ主演男優賞かな
イーサンの演技は全くもって素晴らしい。抑制の効いた静かな表現の中の内面で蠢く狂気と絶望感を見事に演じていた。立派な牧師の顔と狂気に呑み込まれていく自我。人々の救済のために導く言葉を与えているが、自らにはその言葉が帰することなく素通りする。言葉が言葉でしかない虚しさをウィスキーを使った演技で演じ切る。素晴らしい。
しかし、監督のポール・シュレイダーはもう過去の人のようだ。前半の淡々とした物語の進み方はとても良かったが、後半のトリップからイーサンの狂気に拍車がかかる辺りから、緻密さが崩れ、それに伴ったシナリオの行き着いたところが男女の愛に落ち着く陳腐さ。とても残念なフィナーレだ。老いを感じる悲しさの内にエンディングを迎えてしまった。
「神は“今作”を赦すのか?」
独白というかナレーションベースがちょいちょい差し込まれるスタンダード画角の造りである。
ストーリー的には、環境破壊と宗教、そして企業活動という、人間の欺瞞に対し悩む牧師の姿を追う話である。
前半までは大変サスペンスフルな展開で期待できた。男の話す、環境破壊による地球の滅び、故に生まれてくる子供にとって良いことはないから堕胎したいとの告白を、牧師も又大義なきイラク戦争により子供を死なせてしまった負い目から、男の話に徐々に染まって行く。そして長年であろうアルコール摂取による内臓疾患により死期が近い事を悟るにつけ、自分のやっている宗教活動に疑問を抱く様になり、また教会の母体である団体はその環境を破壊している企業から多額の寄付を受けているという矛盾。自爆テロを未然に発見された男は首を吹っ飛ばす自殺を起こし、益々先鋭的に過激思想への影響力に支配され、駆り立てられる牧師。
そして自分も教会の設立記念パーティでその“ジハード”を試みる決心を起こすのだが・・・という展開は、牧師の体や過去の拭えない過ち、そして数々の罪の贖罪を一点に集中させることでクライマックスへとハードルはドンドン高まるのだが、驚くことに、自殺した男の妻が部屋に入ってきて抱き合ってキスして終わり・・・ 呆気にとられるエンディングに茫然自失である。確かにそこに至るまでのシーンで、妻を気遣い、いろいろと尽力する牧師の姿は描かれているし、クライマックス前のイマジナリーシーンとしての、体を文字通り重ねての呼吸をシンクロすることによる空中浮揚及び飛行は、それまでの話から唐突に飛躍したシーンであったが、あれは神を感じるメタファーと捉えたのがミスリードだったのか、結局二人はお互い愛していたというオチへのフリであることに、その突飛な展開に膝が震えた程である。これをどう解釈すればいいのか、観終わった直後だから仕方がないが、どうにも頭を整理できずに、作品自体の否定的な感想に陥ってしまう。そのオチは一番進んではいけないの典型作と言わざるを得ない、或る意味“問題作”であった。
追記:時間が経過して改めて思い起こすと、牧師の行動は正にあの自殺した男の行為を踏襲したような行動の数々であったことに気付いた。男のパソコン内の環境破壊の資料を観るに付け、益々将来の世界に悲観的になり、そして上司の牧師に直訴しても取り合わない。そんな中で益々孤立感を深めていく中で過激思想が形作られていくのであろう。それは真面目、誠実で融通が利かない人間ほど陥る。妻も又亡くなった男の影を牧師に重ねることにより、見過ごしてしまった悔いを打ち払うように、2度と大事な人を消さないように見守る。牧師が妻を労っているようで、実はその逆であったことが明らかになる。そして、決行日に妻が参加することで凶行さえも阻止され、尚且つ自殺までも妻が救う。男が前半に自殺に至った経緯を悉く防いだ妻の踏ん張りを見せつけられた。今作は周りの人間が凶行に走らせず、そして自死さえも防ぐケースワークを提示する作品という観方もできるということに改めて気付かされた。
基本的に全部謎
街の小さな教会の牧師が1人のある相談者と会ってどんどん気がおかしくなっていく映画(たぶん間違ってる解釈、笑)。
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そもそも相談者が何を相談しに来たかというと、この地球は温暖化が進んでいるからそのうち地球は滅びる。そんな世界に子供を生まれさせるぐらいなら中絶させた方が良いっていう思想。
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それ以前に君人間としての大切な何かを失っている!割と序盤でもはやこの思想についていけなくなってポップコーンをボリボリ食べていたら、いつの間にか主人公が爆弾を身につけていましたとさ。
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そんな映画だけど一つだけ思ったのは、主人公は明らかに病気なんだけど色々と理由をつけて病院に行かず病気を見て見ぬふり。さらに教会の修理もずっとしない。
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それが地球温暖化が進んでいるのに見て見ぬふりをする人間達と重なった。
希望と絶望
戦争で息子を失い嫁とも別れてしまった過去を持つ牧師の主人公が、教会に通う妊婦の旦那の話を聞き環境問題と自身の所属する教会の立場の中で葛藤する話。
最初は牧師らしく宿った命について語る主人公だが、ガレージで見つけたものとか環境活動家という名のテロリスト予備軍としか考えられず、なぜそこに流されるのか…。
切り離して鑑賞したつもりだけど地球温暖化に対する懐疑論 の方が信憑性があると感じる自分には尚更ね。
マジカルミステリーツアー辺りからかなり怪しかったけど、牧師も人の子とはいえそのラストで良いのか…そう変化した説得力も感じないし。
テンポもかなりマッタリだし自分の好みに合わなかった。
人生は矛盾との戦い。
心底絶望していても、希望を説く牧師。
子供を作っておきながら、この世に産み落とすべきではないと言う男性。
環境破壊の原因であるエネルギー会社が、環境保護に力を入れているという宣伝文句を使う。
牧師が、医者に禁酒するよう言われた後で、酒のグラスに胃薬をドボドボ入れて飲んだであろう所が印象的であった。
人生は矛盾だらけだが、それでも折り合いをつけてやっていかねばならない。
とても考え抜かれた、知的でスマートなメッセージ作品
2019年の米アカデミー賞脚本賞にノミネートされた、5作品のひとつ(受賞は「グリーンブック」)。書き下ろしたのは、本作の監督も務めたポール・シュレイダー(72歳)自身だ。
脚本家としては、カンヌのパルムドールを受賞した、マーティン・スコセッシ監督の名作「タクシードライバー」(1972)を書いた人である。他にも「レイジング・ブル」(1980)などがある。
本作ほど、考え抜かれた比喩的な階層構造、知的な言葉選びで、的確なメッセージ性を持った完成度の作品は、なかなかない。
公開中の「バイス」(2019)もそうだが、これだけリベラルな社会メッセージ性の高い作品を脚本賞にノミネートさせる度量は、日本アカデミー賞にはないだろう。
シュレイダー監督は、厳格なカルヴァン主義の家庭に生まれたクリスチャンで、"地球の環境問題"と"現代キリスト教会が抱える構造問題"を、悩める牧師(イーサン・ホーク)が日記で自問自答する形で進行する。本作についてシュレイダー監督は、"自分の人生の集大成的な作品である"と述べている。
原題の"First Reformed"は、舞台となる"第一改革派教会"の名前であり、直訳すると、"最初の改革"というタイトルになる。
主人公のトラー牧師は、ミサに参加していた女性メアリー(アマンダ・セイフライド)から、環境活動家である夫のマイケルの悩みを聞いてほしいと頼まれる。
メアリーは妊娠しているが、環境破壊が進む地球の未来を憂うマイケルは、メアリーのお腹の中にいる子が生まれてくることに反対している。子供の将来に健全な環境を残せないと。
マイケルは密かに自爆ベストを作っていて、それをたまたま見つけたメアリーとトラー牧師がそれを隠してしまった翌日に、ライフル銃で自殺してしまう。
マイケルの遺言によって、環境汚染地域に遺灰を撒き、鎮魂を頼まれたトラー牧師は、葬儀の礼拝を行う。ところが教会本部を支援する大手エネルギー企業"バルク社"の社長から、政治的な言動は慎むように諭される。
バルク社は、環境汚染の原因を作っている。一方で、トラー牧師の教会の250周年式典事業の最大スポンサーでもある。
本作はあきらかに"環境破壊による地球温暖化"に警鐘を鳴らすために作られている。
ひとつは活動家マイケルという人間を代弁者として、人類の罪(環境破壊)を、牧師に告解させている。
もうひとつは、ガンに蝕まれているトラー牧師は、"地球(大地・自然)"の象徴である。
冒頭、トラー牧師は1年を限りに日記を付け始めた。トラーの行為は、"死期を察しはじめた"のであり、徐々に病んでいく身体は、マイケルが主張する地球の自然破壊の残年数を象徴する。
マイケルの告解と自死をきっかけに、自身も教会のあり方に疑問を持ち始めるトラー牧師。マイケルの作った自爆ベストを身につけて、250周年式典に参加する"バルク社"の社長を標的にする計画が頭をよぎる。トラー牧師(地球の象徴)が、バルク社(人類の環境破壊活動)を罰するかのごとく。
ところが式典当日、参加しないように伝えていたメアリーが来場してしまう。トラー牧師は計画を断念し、自らの身体を有刺鉄線で巻き、痛め付ける=地球が苦しんでいる。
そして最後にメアリー(人類=愛すべき神の子)を大きな愛情で包み抱きしめる。
とてつもなく比喩が混んでいて、よく考えて反芻しないと、まったく分からない難解な作品だが、構造が見えてくるとその表現方法は、実にスマートだ。
映像的には珍しくスタンダードアスペクト(4対3)になっていて、余分な映像情報を排除し、固定カメラ主体で被写体を全体的に捉えている。
ところが、最新の映画館にはマスキング用の幕がない。ワイド(ビスタ)アスペクトのレターボックス(左右に黒枠あり)で上映されているので、[映像本体]+[レターボックスの黒]+[映画館スクリーンのシネスコ余白]とグレースケール的に見えてしまい、興ざめだ。
これを解決する上映方法はHDRしかないのだが、こんなマイナーな作品をドルビーシネマで上映できるはずもない(まだ日本には福岡にしかない)。こういうところにも、本作のテーマとは別の"理想と現実の矛盾"を感じざるを得ない。
最後にシュレイダー監督は、日本通としても知られ、本作にもトラー牧師が、ひとときの贅沢として、日本料理店で刺身を食べるシーンがある。
ちなみに余談だが、シュレイダー作品の「ミシマ : ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ」(1985)は、三島由紀夫を描き、カンヌの最優秀芸術貢献賞を受賞した。緒形拳が主演し、日本人俳優の日米合作映画出演として話題になったが、三島の同性愛描写への(右翼団体による)反対運動から公開中止になったという経緯がある。
(2019/4/13/ユナイテッドシネマ豊洲/スタンダード/字幕:亀谷奈美)
ラストはそれでええんか
悩みを聞いていた環境保護活動家の男が自殺したことをきっかけに、急激に環境保護に興味を持った牧師が、教会と環境保護に否定的な企業のつながりに気づいて過激な行動に出ようとするが……みたいな。
牧師が環境保護に目覚める感じが急で戸惑うが、何より放り投げるようなラストが理解できない。キリスト教とか環境保護とか、"正しい"とされがちな思想がテロにつながる狂気の話と思っていたが、最後に何熱いキスしてんねんと。何かの思想に殉じるんじゃなくて人愛に生きるってことなの?
〝即席の使命感〟に戸惑ってしまう
宗教的な葛藤について想像が及ばない私のような俗人には、正直、面白さやテーマ性を見出せませんでした。
(宗教的な知識やアメリカでの布教の歴史をご存知の方には深みのある作品なのかも知れません)
宗教が絡まなくても、理念や信念と現実的な状況との折り合いをつけるのが困難なことは世の中にはいくらでもある。
自らの死期を悟って急に〝即席の使命感〟に目覚めてしまうことがある、ということもそれなりに想像できます。
そこのあたりをもう少し掘り下げてくれれば、最後は愛の力に救われる、という展開にもっと説得力があったと思います。
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