「不思議と幸せな気持ちが残る映画」台風家族 マリさんの映画レビュー(感想・評価)
不思議と幸せな気持ちが残る映画
コメディとされてますが人間くさいリアルなお話で泣きました。大人の喧嘩なんて現実でもよくあることで必死になっている人って傍から見たら滑稽でもある、そういう部分が生き生きと描かれていました。筋書きはとっぴなところもあるけど違和感はない、そもそも映画やドラマや小説って言ってしまえば1人の人の妄想を膨らましたものなので現実的かどうかよりも主題がちゃんと伝われば良い。PG12でsexシーンもありますが家族が代々続いていくにも当たり前の人間くさい行為なので必要なシーンだと思います。伏線回収が気持ちいい。なにより不器用な親子の心情が胸に迫りました。
ネタバレありで細かく感想を。
主人公の小鉄はクズと言うより教養がなくみみっちい男、だけど純粋で一本気なので妻の美代子が「超好き」になるのもわかる魅力があります。40すぎて「俺は夢の途中なんだ!」だの「俺もシュッとした名前がよかった!」だの言ったり父親の写真を足の親指の先でぐりぐり踏む馬鹿でみみっちいところがかわいく思えてきます。遺産を少しでも多くもらおうとみみっちく頑張る夫を決して馬鹿にしたりせず頷きながら見守る美代子の言動からモラ夫共依存関係ということではなくちゃんと対等な愛し合っている夫婦ということが感じられます。
だけど子どもからしたら嫌な父親だろうな。娘のユズキになじられたあとの小鉄の動揺を隠そうとする表情がおかしくて哀しい。
小鉄や一鉄は自分の父を思い出してしまいます。いつも不機嫌で子どもを褒めることもなく夫婦関係も良くは見えなかったけれど、裕福でなくとも家族を養ってくれたし結婚指輪は律義に亡くなる数ヶ月前入院するまでずっとつけてました(入院すると検査のため金属の指輪は外さなくてはいけなくなりました)。台風家族を観て自分の父の心情がより理解できた気がします。
主人公の両親の老老介護シーンは部屋の様子がリアルすぎて怖いくらいでした。部屋は薄暗く座椅子に変な柄のバスタオルがかけてあり、食卓には小鉢でなく白いパックのまま出された納豆とおじいさんが作ったおかずが大皿で盛られてる、マジック手書き平仮名での張り紙、オムツが見えるところに雑然と置かれている。
後半ありえないファンタジーですが泣きました。骨になっても離れない夫婦、誕生日に海、海ではしゃぐ家族、最後月子が撮った家族写真には両親の一鉄夫婦も笑顔で映っている。
私は父を看病介護看取りしましたが精神的に納得できるお別れではありませんでした。小鉄のように恨みつらみが心の底に澱んでいます。台風家族がその気持ちをファンタジーで昇華してくれたように感じました。観たあと不思議と幸せな気持ちが残りました。私も心の中で父に「また会おうな」と言いたいです。