劇場公開日 2019年6月7日

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「分からない事ばかりだからこそ、町田くんの世界は素敵だ」町田くんの世界 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0分からない事ばかりだからこそ、町田くんの世界は素敵だ

2019年11月6日
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鑑賞方法:DVD/BD

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石井裕也監督がよりによって少女漫画実写化を手掛ける。
が、原作もありふれた代物ではなく、今や日本映画界を代表する若き名匠に掛かれば、コミックの実写化も一風変わった魅力の好編に。

高校生の町田くん。
勉強もイマイチ、運動もダメ。ボウリングでは奇跡的な連続ガーター。
画に描いたようなのび太くんタイプの冴えないメガネ男子だが、唯一の取り柄が一つ。
人間愛に溢れ、誰にも優しいピュア過ぎるくん。
困ってる人が居ると助けずには居られず、滑稽な走り方で猪突猛進、一生懸命。遅いけど。
助けると、助けられた人には風が吹く。…いや、マジで。
町田くんにとっては、家族、クラスメイト、周り、皆、それどころか人類全員が“大切な人”。
聖人君子。“キリスト”なんてあだ名さえも。
愛し、愛され、愛すべき男の子だが、それはイコール、周囲からは“変わり者”。
そんな町田くんの世界が変わる出来事が…!

クラスメイトの猪原さん。
美人だが、クラスの誰とも話さない…と言うか、近寄るなオーラ全開。いつも不機嫌。
町田くんとは真逆の、人嫌いの女の子。
ある日、町田くんは猪原さんに親切にする。
いつもと同じく人に親切にしただけの筈なのに、不思議な感情が。
分からない。何なんだろう、コレ…?
町田くん、それはね、誰もが経験するアレなんだよ。特別なアレという感情。

人好きの男の子と人嫌いの女の子の恋。
…と単に言ってしまうとそんな設定だが、もうちょい一捻り。
次第に猪原さんは町田くんが気になり始める。
人嫌いだった女の子が人好きの男の子にアプローチし始めるが、相手はそれが“恋”とは知らず。
と言うか、そもそもが分からない。
“好き”ってのは分かる。家族が好き、人が好き。
でも、それとは違う“好き”。その“好き”って何…? “恋”って何…?
鈍感?…いえいえ、ピュア過ぎて分からないピュア男子の波乱いっぱいの初恋物語。

二人の初恋ストーリーが、笑えて、やきもきいじらしく、ほっこり微笑ましく愛らしい。
町田くんも町田くんで初めての感情に右往左往するが、猪原さんも猪原さんで町田くんへの恋に感情がハイ&ロー。
にしても、町田くん…。
猪原さんに言い寄る男子に協力。結果、猪原さんを怒らせ、悲しませてしまう。
その優しさから他の女子から好意も持たれ…。
時々KY。いや、いつもKYか。
もう何と言うか…、何て言ったらいいか分からない!
寅さん、この不器用な高校生二人に恋の指南して!

傑作コミック、人気監督、豪華キャストのメジャー話題作。
その主演を演じる二人は、売れ始めの若手注目株ではなく、オーディションで選ばれたそれこそまっさらでピュアな新人二人。
細田佳央太と関水渚。
本作の魅力は、この新人二人の魅力と言ってもいいだろう。
よくよく見るとイケメンだが、いい意味で平凡で素朴なメガネ男子を好演した細田くん。
そして、新川優愛似のキュートで美人な渚ちゃんに萌え~。(私は男なので、彼女には今後大注目!)
演技も悪くなく、魅力的で瑞々しくて、こりゃ二人共、年末の映画賞で新人賞を圧巻するだろう。

この二人を見守るかのように、周りが主役級の豪華キャスト。
二人に合わせて(?)、前田敦子、岩田剛典、高畑充希、太賀は高校生役。高畑に至っては、後輩!
見もしないでこういう作品を茶化す輩にはあーだこーだ言われそうだが、各々心得た役回り。
岩ちゃんはちとヤな奴、高畑は年下小悪魔に徹し、中でも前田敦子!
姉御口調で冷めたツッコミ役ながら、印象抜群! マジかヤベェなくらい、登場すると作品が面白くなる。

町田くんの両親役に松嶋菜々子と北村有起哉、ある雑誌記者役に池松壮亮、その妻に戸田恵梨香、編集長に佐藤浩市…。
サブキャラやサブエピソードなのに、一本の大作映画が撮れるくらい豪華過ぎでしょ!
このキャスティングも石井裕也監督だからこそだろう。

美しい映像で、瑞々しい初恋青春ストーリー。
切なかったり、もどかしかったり。
かと思うと、ドタバタなコメディ。
そしてラストは、意表を突くファンタジー…!?
確かにラストはちとありえねー!だけど、初恋や青春はこれくらいファンタジー!なのだ。
このユニークな作風/演出は飽きさせはしない。

サブエピソードもこの初恋物語を応援。
善意など無い悪意に満ちたこの世の中に不満や苛立ち募る雑誌記者。そんな彼が、町田くんと出会って…。
町田くんの優しさに触れた同級生たち。そんな彼らがラスト、町田くんの大ピンチに…。いいね、こういうの。
町田くんだけじゃなく、彼らの世界も変わっていく。
海外へ生物の撮影に行ってる町田パパの台詞が良かった。
「分からない事があるから、この世界は楽しい。素晴らしい」
そして最後は一生懸命、ファンタスティックながらハートフルに。
本当にピュアな初恋ストーリー!

善意や優しさ、恋や好きが、世界を変える。
周りも、自分自身も。
あたふたするだろう。分からない事ばかりだろう。
でも、新しく知ったその世界は…
とても素敵だ。

近大