劇場公開日 2019年5月10日

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「よくできたホラー」ラ・ヨローナ 泣く女 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5よくできたホラー

2019年5月20日
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鑑賞方法:映画館

怖い

 可愛さ余って憎さ百倍という諺がある。多くの人が経験しているであろう言葉だ。人は得てして、愛に見返りを求める。実はその時点で既に愛とは言い難くなっている。見返りを求めるから、それが得られないときに、相手を憎む。別れた男の話をする女性は大抵このレベルだ。男の場合は更に酷い。
 それに対して、何の見返りも求めない愛がある。キリスト教ではそれを神の普遍的な愛であるとし、アガペーと呼ぶようだ。マタイによる福音書には、汝の敵を愛し、迫害する者のために祈れ、と書いてある。無償の愛どころか、殺されても愛するという壮絶な愛である。
 本作品はキリスト教の国が舞台だが、愛の形は見返りを求める低レベルだ。可愛さ余って憎さ百倍そのままのストーリーである。しかしエクソシスト作品はどうしてもそうならざるを得ないものだから仕方がない。そもそもアメリカはトランプ大統領の口癖でもあるdeal(取引)の国である。無償の愛など最初からないのかもしれない。にもかかわらず大統領の就任式で聖書に手を載せて誓うのは、ほとんどブラックジョークである。

 さて、このジャンルの映画は世界観よりも恐怖と不安を主人公と共有することが大事で、その意味では本作品は成功していると言っていい。自信満々で鼻持ちならないヒロインが徐々に恐怖を増大させていく様子や、周囲の理解も協力も得られないであろう孤絶感が、観客の恐怖感を広げていく。現実にはありえないだろうと思いつつも、科学で解明できていないことがたくさんあるから、あるいはこういうことも起こりうる。未知に対する恐怖だ。
 観ている間はかなり怖い作品だが、観終わると不思議な清々しさと、ある種の達成感がある。よくできたホラー映画に共通の特徴である。

耶馬英彦