ミッシング・レポートのレビュー・感想・評価
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どうしても残ってしまう難しさ
斬新な描き方と釈然としない感じが入り混じる。
警察が追いかけていたのが行方不明になっているジョイス。
彼女との関係性について明確なことを話さないエヴァンに容疑が掛けられる。
この作品は、それぞれの登場人物たちの想いがねじれの関係になっていることで、何が解決して何がわからないのかが、わからないという感じの感想になってしまう。
しかしその奥にこそこの作品が描きたかったことがある。
エヴァンは言語学者で哲学者であり、それらを教える教授だ。
彼の頭の中にあるのが「物事に対する証明」という概念であり、その証明について絶えず考える癖がある。
ネズミ捕りを購入した際に見かけた女性店員とのSEXを妄想する。
この妄想はかなり強烈で、車に戻ってもなおその妄想に憑りつかれていることが伺える。
彼にとって事実というものがどれで、何が事実でないのかという一般的な思考からは逸脱し、その妄想が真実である証明を絶えず頭の中でしているのかもしれない。
これについてはマロイ刑事も同様で、絶えず一つしかない真実を、物理的な事実に沿って追いかけている。
ここが両者の大きな違いで、存在する事実そのものを疑う学問である哲学と、事実関係から真実を探り出す捜査の視点との違いが浮き彫りになっている。
エヴァンの良心
彼はこの街に引っ越してくる前に、シカゴで問題を起こしている。
それが酒と女性問題だったと思われる。
この出来事が妻に見つかったことで大学を辞めて新しい街へやってきた。
この不倫は彼にとって大きな反省点となり、その後酒を断ち、女学生とそんな関係になることを絶ってきた。
ところが一度心が折れたことがあった。
アナ
彼女の積極的な仕掛けに、エヴァンはたった一度誓いを破った。
これはほんの些細なキスだけだったと思われるが、この時開いてしまった穴から、彼のエレンに対する嘘が始まったのかもしれない。
その後アナが再び彼のクラスに参加したことが、彼の思考に大きな影響を与えたのだろう。
妻のエレン
「あなたは5年間も私に嘘を付き通して来た。人生を返して」
エヴァンにとって大切なのが家族だ。
しかし誘惑に負けるときもある。
5年前に犯した過ちは、ホテルのマッチの想い出と一緒に持ち続けている。
自分への戒め
このマッチの意味することを、アルコホリック・アノニマスでのコインと同じようにしているエヴァンのしぐさを見たことで、マロイ刑事は彼は無実だと確信したのだろう。
マロイ刑事も以前に酒の失敗からアルコホリックアノニマスに通っていた経歴があると思われる。彼が指先でコインを転がすシーンがある。
しかし、
哲学者である彼の妄想癖と言うべき職業病的思考と圧倒的に不利な状況によって、エヴァンは自らをネズミ捕りにかかるネズミのように捜査の罠にかかっていく。
これは明らかに彼の些細な嘘が発端だが、そもそも彼はすでに妄想の中でジョイスと関係している。これが彼の良心の呵責となって嘘へと導いたのだろう。
この物語に登場するネズミはエヴァンを象徴している。
ネズミ捕りにウサギがかかったのも、自分で罠を仕掛け、自分がその罠に引っ掛かることを意味している。嘘が自分を追い詰めていくのだ。
エヴァンは基本的に家族を大切にし、5年前の酒と不倫を猛省している。
しかし同時に頭の中で描かれているのが、女学生との不倫という妄想だった。
これは彼の性癖であり、性格と同じくとても変更しにくいものだ。
頭で行う妄想癖とそれに対抗する理性が絶えず彼を苦しめている。
酒、
この魔力が性癖を際立たせてくる。
ジョイスの行方不明事件と彼女との些細な出会いによって、雨の中で学生たちを乗せた時に描いた妄想がリアル過ぎるほど強くイメージされ、いつしかエヴァンの中で本物と区別がつかなくなってしまったことが、彼と捜査とエレンの想いとを交錯させて、この複雑な物語を構成している。
この性癖と理性の葛藤こそ、この物語の本質だ。
エヴァン
5年前に彼は酒の魔力で不倫に走った。
猛省した彼は仕事を辞めて引っ越してやり直す。
酒をやめ、同時に浮気性を理性でコントロールし始めた。
あのマッチこそ、彼の決心の表れ。
しかし、行方不明事件の数か月前に、クラスのアナが話しかけてきた。
でもそれはおそらくキスのみで終わった。
ところがまたアナはエヴァンのクラスに参加してきた。
このことで彼の中にまた妄想癖が付きまとうようになる。
雨の中、学生たちを車に乗せたときに見たジョイスとの妄想
ネズミ捕りを購入した時の女性店員との妄想
そして起きたのが、ジョイスの行方不明事件だった。
彼は再び発生し始めた妄想癖との葛藤と、そのために始まった些細な嘘
自分や家族にとって不利な情報を妻に提示しないという行為。
これが妻の不信感に変わっていく。
特に娘が車の中で拾ったルージュ(リップグロス)
これはエレンの疑いの気持ちを決定的にしたものと思われる。
結果的にジョイスは崖から転落死したのが確定するが、エレンには何もかもが信じられなくなってしまう。
エレンにとってあのルージュは警察も知らないことで、つまり別の女の影は消えないのだ。
そうして決定的となったのが、ジョイスの遺体発見によって大学が彼のクラスを停止したという事実を言わなかったこと。
再開した妄想癖は続く。
酒によって加速する。
バーから電話した先は、アナ
もう我慢できなくなってしまったのだ。
我慢できなくなってしまったが、頭の中の葛藤は収まるどころか、逆にヒートアップしてくる。
「やっちまえ」という声と「やめろー」と叫ぶ声
それがカーセックスの途中にアナを突き飛ばしてしまう。
この暴力的な出来事が、妄想と現実の区別を決定的に曖昧にしてしまう。
エヴァンは、ジョイスを殺したのは自分だったと、ついに現実を妄想に乗っ取られてしまう。
警察に出頭し「記憶がぼやけてしまうことがある」という。
これが冒頭のシーンとつながることで、視聴者は騙されてしまう。
この物語が描いているのは事件ではなく現実と妄想、そしてエヴァンの頭の中だけにある何か。
哲学の問題 黒板に書いた「このイスを証明せよ」
誰の目にも見えるイス これの何を証明するのだ? という純粋な疑問
学問という罠
マロイ刑事は「どの椅子?」と答えた。
つまり、椅子を証明しなければならない場合、そこに椅子があるかどうかさえ不明であるはず。
だからマロイはそう答えた。質問に質問で返した。
こうなれば質問者は、まずそこに椅子があるのかどうかを説明しなければならなくなる。
有ればそれがそうだとなり、なければ証明できなくなる。
現実と妄想の境界の概念がそこにあったのだろう。
エヴァンの思考回路を彼の行動によって表現した作品
そしてタイトルは、行方不明事件捜査のある特定のケースを意味する。
事件ではなく事故だったものの、特異な思考回路の男が疑われたこと。
マロイ刑事はそのように書いたレポートを提出したのだろう。
最後にエレンは彼に言う「真実を話して! 解釈じゃダメ」
この言葉は非常に大きな意味を持つ。
同時に、これが映画であり作品であることで、絶対に解釈は必要だ。
解釈世界の面白さと現実世界の事実
かなり奥の深い作品だったが、ここまで記載しながらブレインストーミングしなければ解釈できないもどかしさが残ってしまうのが惜しかった。
厳しい米国の夫婦関係
ジワジワと締め付けてくる
ガイ・ピアースとピアース・ブロスナンの2大スターの共演による、サスペンス。女子大生の行方不明事件の真相に迫る中で、事件の犯人と疑われた大学講師をガイが、その事件を追う刑事にブロスナンが演じている。レビュー評価ほど悪くは無いと思う。
大学講師のエヴァンの穏やかな生活が一転して、行方不明犯人としての嫌疑がかけられる。ジワジワと犯人へとまつりあげられていく様が、ガイとその家族の崩壊と共に描かれている。
次から次へと出てくる証拠は、エヴァンを不利にするものばかり。そこに、エヴァンが過去に起こした浮気の罪がリンクして、エヴァンの精神も壊れ始める。
そして、その真相は、意外な結果となってフィナーレを迎えるが、正直、ラストシーンの意味することが、よく分からない。
犯人の嫌疑が次第に強くなっていく過程は、よくできたクライム・サスペンスと思っていたが、最後があまりに呆気なく、面白味がなかったのが残念。
高い評価は難しいですが、良く出来た作品だと思います。
行方不明になった女子学生。その失踪した地に痕跡をのこして警察に疑われた教授の物語。
物語が進む中で、「本当にこの教授が殺したのでは?」という恐怖にさいなまれます。終盤からは、教授の精神の迷路に誘い込まれます。何が(映画上の)真実で、何が教授の精神の闇なのか?
高い評価は難しいですが、それでも非常に良く出来た作品だと思えました。
終わり方は正直好きではありません。制作者としては、精神の迷路状態で終わらせたかったのでしょうが、これは好みが分かれるように思えました。
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