「真梨子監督から日本映画界へ」宮本から君へ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
真梨子監督から日本映画界へ
同名コミックを同監督・同キャストでTVドラマに続いて映画化。
TVドラマのその後らしいが、全く難無く話や設定に入っていけたから驚き!
不器用だが熱血な営業マン、宮本浩の奮闘物語。
年上の恋人・靖子との愛が描かれる。
結婚も決め、靖子は妊娠もしている。
それぞれの両親に挨拶を済ませ、友人たちからも祝福。
一見薔薇色のように思えるが…、
原作は新井英樹。あの衝撃的な愛の形を描いた『愛しのアイリーン』の原作者。
監督は真梨子哲也。あの脳天ガツン級の衝撃バイオレンス作『ディストラクション・ベイビーズ』の監督。
このタッグで生易しい作品になる訳が無い!
靖子の自宅に招かれ一緒に夕食を取っている所へ、靖子の元カレが乱入。靖子に暴力を振るう元カレに宮本は、「この女は俺が守る!」と宣言。
ここから、宮本と靖子の試練に次ぐ試練、究極の愛が始まる…。
その元カレと交際宣言を切っ掛けに二人は結ばれる。
貪るように身体を絡め合う。
人前でもキス。
純粋で真っ直ぐ。
それ故、喧嘩も壮絶。
二人とも感情が激しい事に加え、もはや喧嘩ではなく、口論…いや、罵り合い。
それでも深く愛を育む。
そんな時、事件が起きる…。
取り引き先との飲み会で酔い潰れた宮本。
靖子と自宅に送り届けたのは、取り引き先の息子でラグビー選手の拓馬。
好青年かと思いきや、酔い潰れて爆睡している宮本の隣で、突然靖子に襲い掛かる。
靖子は必死に宮本に助けを求めるが、宮本は全く気付かず起きず…。
翌朝起きた宮本は、様子がおかしい靖子から事情を聞き出す。
ショックを受ける宮本。イイ奴だと思った拓馬が憎い。
宮本以上に憎悪を燃やしたのは靖子。拓馬も憎いが、宮本の事も憎い。
私の事を守ると言ったあの言葉は何だったのか…? ただの大言壮語だったのか…?
こんなダメ男だったとは…。
宮本に口から溢れ出す罵詈雑言を浴びせ掛け、絶縁を言い渡す。
男としての面子を潰された宮本は拓馬に復讐を誓うのだが…、
相手は現役ラグビー選手で体もデカく屈強。
ボコボコに返り討ち。
しかし、それでも諦めない宮本。
靖子の為に、俺自身の為に、絶対に負けられない勝負に再び挑む…!
この勝負シーンが、見てて痛々しいほどのバイオレンス。
顔中膨れ上がり、血だらけ、歯も欠け、血ゲロも吐く。
一瞬の隙を付き、宮本も遂に遂に逆襲。相手のアソコを握り潰す。
宮本の苦しいうめき声、相手の絶叫悲鳴。
アパートの外に面した高所階段での勝負故、ヒヤヒヤハラハラ…。
何度も手に汗握った。
何と言っても本作は、主演二人の大熱演…いや、超熱演!
元々原作の熱烈ファンだったという池松壮亮。それに応える全身全霊の体現! 食べたご飯を撒き散らし、ボコボコに敗れ、無様に醜態を晒しながらも、熱く突っ走る! キネ旬他主演男優賞は納得。無視した日本バカデミーは本当に○んで欲しい。
蒼井優も池松以上に複雑で絶叫シーンが多い難役だったのではなかろうか。改めて、スゲー女優だと思った。『彼女がその名を知らない鳥たち』以上の濃密な濡れ場にも挑戦。
大胆なラブシーン、罵倒し合うほど感情をぶつける二人の熱量に、圧巻・圧倒された。
井浦新、佐藤二朗、ピエール瀧ら周りもクセ者揃い。
中でも、拓馬役の元格闘家の一ノ瀬ワタルは嫌いになってしまうほどのインパクト。
役者陣の演技も熱いが、監督の演出も熱い。
ラブシーンもバイオレンスシーンも手抜きナシ。
受け付けない人には一切受け付けない作風だが、ハマった人にはまたまた脳天ガツンと来る。
時系列はバラバラだが、宮本の骨折や靖子の髪型などでそんなに混乱する事は無い。さらに時系列をバラバラにする事で、宮本と靖子の今と降り掛かった試練により深みを与えている。
それでいて、ラストは思わず感動…。
映像化の企画が上がったのは、2012年との事。それから6年越しのTVドラマ化、7年越しの映画化…。
一本の作品を作るって、これほどの本気度がいる。
とてもとても『かぐや様は告らせたい』とは同じ国の作品とは思えない。
誰かを愛する事、
誰かを守る事、
不器用ながら懸命にがむしゃらに貫く事、
試練を乗り越え、勝ち取る事…。
それらって、並々ならぬ覚悟がいる。
そうやって勝ち取った宮本と靖子のラストシーンの幸せに、心底満たされた。
また、その直前の宮本の愛の絶叫告白。
何だかこれは、これからも日本映画界に挑む真梨子監督の代弁のように感じた。
お前たちの考えなんてこの際どうでもいい。俺に任せろ!俺について来い!俺が守ってやる!
宮本から靖子へ。
真梨子監督から日本映画界へ。