「前日譚で深化するキングスマンの世界」キングスマン ファースト・エージェント ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
前日譚で深化するキングスマンの世界
当初の全米公開予定から2年以上、延期に延期の末やっとお目見えした本作。その間映画館でポスターやフライヤーが出現するたびに何度ぬか喜びをしたことか。そんなこんなで自分の期待が過度に膨らみすぎているのではという不安さえ感じながら観に行ったが、杞憂だった。
前の2作に比べると、エグ味は少ない。みんなの頭が爆発するとか、人間がミンチにされるとか、あっけらかんと胴体チョンパみたいなレベルに相当するシュールなシーンはなかった。個人的には、初期の劇場予告がシリアスな雰囲気だったのでテイストを変えてくるんだろうなという心構えはしていたが、前作の延長線上のどぎつさを期待すると、少し肩透かしを食らうだろう。でも、スタイリッシュでテンポのよいアクションは健在だ。
コリン・ファースやタロン・エガートンを見たい気持ちもあったが、実際見てみると、正統な3作目の前に前日譚を持ってきてキャストを一新し、別の角度の物語を見せたことは、マンネリ化を避ける意味で正解のように思えた。
今回のおふざけは、第一次世界大戦当時の歴史上の人物をバンバン登場させているところだろう。とりあえずラスプーチンやサラエボ事件のことは事前におさらいしておくとより楽しめる。トム・ホランダーが一人三役で英独露を統治していたのは笑ってしまった。
史実や逸話そのままの描写が結構あり、それが物語の流れの中でとても上手に生かされている。ちなみに本作のパンフレットに、登場した実在の人物(マイナーな人まで12人)の説明と、彼らが作中でどのように描かれたかがコンパクトにまとめられている。このパンフ、当時の時代背景や過去2作の写真付きまとめもあって、小さいし薄いがなかなか便利だ。
史実を取り込みながらも創作は大胆に皮肉たっぷりに。右も左も、レーニンもヒトラーも全部陰謀かよ!
中盤で描かれるコンラッドの戦場での話は、キングスマンの雰囲気から離れた戦争映画のような出来だ。そこだけはおふざけがなく、顛末もインパクトがある。オーランドがキングスマンを創設する強い動機につながる大切なシークエンスだから、シリアス寄りの描写で重みを持たせたのはよかったと思う。
過去作のエージェントのコードネームの由来を匂わせる場面なども多々あり、最後まで見ると1作目にかちりと繋がる爽快感がある。Manners Maketh Man の決め台詞が似合う世界観は一貫している。
毎回眼福な壮年英国紳士アクションだが、レイフ・ファインズが頑張っていて(もちろんスタントも使ったんだろうけど)もう本当にありがとう、という感じだった。あんなに渋くて威厳があるのに、一番ドジっ子な行動が多いのがまたたまらない。英国紳士の身だしなみをばっちり決めた姿から、乱れ髪に無精髭の疲れた姿、ズボンを脱いで太ももを舐められるシーンまであってサービス満点。そこまでしてもらってよいのでしょうか。
最高級の仕立ての英国スタイルを表現した衣装や、緊迫感があって時に壮大な劇伴も、とにかくいちいちかっこよかった。今回はロシアつながりでチャイコフスキー。クラシックで盛り上げるのが上手い。
ラスプーチンが強烈過ぎて、ラスボスがちょっとかすんだのが惜しい。ネットのない時代に凄すぎる使用人情報網と、ヤギがいい仕事をしていた。
過去の作品においてハリーやエグジーが帯びた使命の背景が明確になったことで、1、2作の再鑑賞がまた一味違うものになりそうだ。楽しみを増やしてくれる、シリーズへの期待を裏切らない前日譚。
ありがとうございます!ハリーやエグジーがますますカッコよく見えそうですよね。
2作目までのノリも好きですが、設定の土台を固めてくれるような今回の物語も、シリーズにとって有意義だと思いました。