「善き敗北者の物語」フォードvsフェラーリ ケイさんの映画レビュー(感想・評価)
善き敗北者の物語
1960年代、ル・マンを支配していたフェラーリを破り、黄金期を築くフォードの、最初のル・マン優勝に隠されていた秘話を描く、事実に基づく映画です。
期待していたとおりレースシーンの迫力が凄いのですが、CGでは無く実写で撮影しているとは驚きでした。ストーリーも主役のオッサン2人が濃いキャラで良い味を出し、ドラマチックに盛り上げてくれます。
主役は、かつてル・マン24時間レースに優勝し、チューニングカー・メーカーの代表として活躍するキャロル・シェルビーと、彼が信頼する開発ドライバーのケン・マイルズ。
シェルビーはフォードからル・マン優勝を委託され、新型レーシングカーのGT40とチーム運営を任されます。シェルビーは開発チームの中心にマイルズを置き、マシン開発と実戦を進めますが、フォード重役から横槍が入ります。
大企業であるフォードにとって、レース挑戦は莫大な資金を投入する大プロジェクトであり、勝つにしても宣伝効果を狙った勝ち方がある。マイルズはドライバーとして歳を取り過ぎ、好き勝手を言ってフォードを持ち上げそうに無いから、ヒーローにする価値が無い。レース出走を拒否されたりしますが、マイルズを信頼するシェルビーの後押しで、遂に1966年のル・マンに挑戦。ここまでのシーズンの戦績、セブリング12時間優勝、デイトナ24時間優勝は、レースの記録として非常に価値があります。
フォード重役との確執は、シェルビーとマイルズの信頼関係を描くために、事実より大袈裟に書かれています。
マイルズがドライバーとして優れていた点は、レースの状況分析がシェルビーとそっくりで、シェルビーの信頼があった他、フォードGT40の開発を担い、マシンの挙動を熟知していたことにあります。レッドゾーンの7,000rpmを超えても、エンジンはブローしないと判断できる。ル・マンのユノディエールの直線でバンディーニのフェラーリと速度勝負をし、相手をエンジンブローに追い込んだのは、自分のマシンを信頼していたから出来たこと。
この辺り、レース全般の駆け引きは非常に見応えがあり、映像の迫力と共に、とても楽しめました。
ル・マン24時間レースの結果は、マイルズが最も速かったはずなのに、2位。シェルビーが慰めるために駆け寄りますが、マイルズは残念そうではあるものの、悔しそうには見えません。自分の持てる力を存分に発揮したから、ある意味、満足したのでは、と思います。
映画はマイルズの最後と、その後のシェルビーとマイルズの息子ピーターのやりとりまで描きますが、製作者がマイルズのことを敬愛しており、観客に対して彼の生き様を知って欲しかったのでは、と感じました。
映画では、マイルズの同僚ドライバーとして、アメリカ・レース界のビッグネームが名前を連ねています。フォードのル・マン挑戦への本気度は、こんなところからも伺えます。
・ブルース・マクラーレン:ニュージーランド人、チーム・マクラーレンの創設者。元F-1ドライバー。相棒のフルムと共に、60年代の北米スポーツカーレースを席巻する。
・デニス・フルム:ニュージーランド人、元F-1チャンピオン、マクラーレンにエースドライバーとして加入。
・ダン・ガーニー:元F-1ドライバー、レーシングチーム「オール・アメリカン・レーサーズ」代表、自ら製作したマシン「イーグルF-1」で優勝歴あり。
・フィル・ヒル:元F-1チャンピオン、アメリカ人初。ル・マン優勝3回。
・ロニー・バックナム:第一期ホンダF-1のドライバー。
ガーニー、ヒル、バックナムの息子さんたちは、映画の中で車を操ったそうです。