「走り屋たち」フォードvsフェラーリ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
走り屋たち
カーレースを題材にした作品は抵抗を感じる時がある。
レースシーンは興奮するが、車好きやカーレースに詳しくないと心底楽しめない。ちなみに自分は、車やカーレースの事には全く疎い。
本作も序盤はそうだった。車好きには堪らん車種名、専門的な用語も飛び交う。
が、車やカーレースの映画である以上、それらはあって当然。
それに、本題に入るなり、どんどんどんどんエンジンが掛かってきた。
経営不振にあえぐフォード社。
大手フェラーリ社と競合案を持ち掛けるも、他社とのダシにされる。
舐められたフォード社は、レース参戦を決意。即ち、
ル・マン24時間レースで、フェラーリ社に勝つ!
当時のレース界の絶対王者に勝つ!…というカーレース映画の醍醐味も充分だが、
弱小企業が大企業に挑む!
すでに例えられているように、池井戸潤作品のような、日本人好みの題材ではないか。
車好きでなくともカーレースに詳しくなくとも充分楽しめる作りになっていた。
その超難関レースを任されたのは…
キャロル・シェルビー。元名ドライバーだったが、心身の限界により技術者へ。
ケン・マイルズ。破天荒で問題児の天才ドライバー。
意外な気もしたが、マット・デイモンとクリスチャン・ベールの2大スターが初共演。
両者共さすが甲乙付け難い熱演見せるが、強いて言うならやはり、ベール。
非凡な人物像、感情激しい性格、今回もまた減量して挑み、いつもながらその巧演と役者魂には感服させられる。
レースシーンの大迫力大臨場感は言わずもながな。
これは本当に本当に、劇場大スクリーンで体感して!
あの速さ、夜や雨の中も走るスリリングさに、ハラハラドキドキ!
まるで自分も車に乗り、レースに参加して爆走してるかのよう。
車の事に全く詳しくないのに、掛かるエンジン音にすらしびれてきた。
撮影、編集、音響などの映画技術は超一級!
テンポよく、グイグイ引き込まれ、全てを手堅く纏めたジェームズ・マンゴールド監督の手腕は称賛モノ。
常に上質作品を手掛け続けるこの才人に、また一つ新たな代表作誕生!
本作にこれほど興奮・魅了されるのは、単なるカーレース映画に非ず。
主人公たちに次々降り掛かる問題、難題、障害。
限られた資金と時間の中でレースに勝てる一台を作る。改良、試験走行、試行錯誤を繰り返しながら。涙ぐましい技術者魂!
交代で運転し、修理や点検、休憩も挟むが、24時間を走り切る。その不屈の精神!
最終的な目的は妥当フェラーリなのだが、他にも敵が。当のフォード社で、重役たちの圧力や確執。コイツらの顔を立てる為に、俺たちは最高の車を作り、命懸けのレースをしてるんじゃない!
シェルビーもマイルズも、言わば“負け組”。
シェルビーは夢破れ…。
家庭を持つマイルズは作業場が差し押さえられ…。
両者、人生クラッシュ寸前。
そんな時に、この一世一代の挑戦。
勝てるか負けるか、分からない。
だから、挑む!
芽生える男二人の絆と友情に、熱くならない訳がない!
実話なので触れるが…、
フォードはレースでフェラーリに勝つ。競い合って勝ったというより、技術面での勝利と言えるだろう。
ここで興奮最高潮のゴール!…とならないのが、本作のミソ。
再び、走り屋のプライドを傷付けるような、会社の横槍が。
そんなもんを蹴散らし、走り屋として突っ走って欲しかったが、意外にもマイルズが選択したのは…。
その時のマイルズの表情が忘れ難い。
会社の要望通りにした。こんなにも貢献したのに、シェルビーとマイルズに突き付けられる不条理…。
さらに、
レース終わって、開発した新車の試験走行中、まさかの悲劇が…。
全く知らなかったので、ショッキングであった。
確かにこれは、単なるカーレース映画ではなかった。
仕事や家族、何の為に不可能に挑むのか。
技術者として、走り屋として。
疾走感に痛快さと爽快さ、ほろ苦さをまぶしつつ、
プライド、誇り、信念…熱い漢たちのドラマ!
2020年最初の劇場鑑賞は、見事なスタートダッシュを決めた快作であった!