劇場公開日 2020年1月10日

  • 予告編を見る

「タイトルに偽りあり?マシンオイルに塗れた男達のカーレース版ウェスタン」フォードvsフェラーリ よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0タイトルに偽りあり?マシンオイルに塗れた男達のカーレース版ウェスタン

2020年1月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

1963年経営不振に陥っていたフォード社のリー・アイアコッカはこれからの車は速くてカッコよくなければならない、そのためにはル・マンで勝てる車を作らなければならないと会長ヘンリー・フォード2世にフェラーリ社の買収を進言、交渉を任される。モデナに赴きエンツォ・フェラーリと直談判するアイアコッカだったが、提示された条件に納得出来なかったエンツォはアイアコッカにあらん限りの罵声を浴びせて契約締結を拒否。帰国したアイアコッカは会長に報告、激怒した会長はル・マンでフェラーリを倒すべく参戦することを承認する。アイアコッカはル・マンで優勝した唯一のアメリカ人である元レーサーのシェルビーに参加を要請、精鋭チームを模索するシェルビーはあるレースで騒動を起こしながら優勝した変わり者のイギリス人レーサー、マイルズに目をつける。

・・・これはどエライ傑作。

まず場内に響き渡るエグゾースト・ノートで小学校時代にスーパーカーに夢中になったアラフィフは全身総毛立ち。レースを引退したシェルビーが主治医の診察を終えてポルシェ356でマルホランドハイウェイ(多分)を駆けるシーンで脈拍数が跳ね上がるでしょう。このシーンは恐らくジェームズ・ディーンへのオマージュかと。そんな心臓をえぐるようなツカミの後に繰り広げられるGT40製作現場での悲喜交々、気が遠くなるような試行錯誤を経て乗り込む雨に沈むル・マン、ここからはもう眼球にワイパー付けたいくらいに号泣しました。

まずこれ、タイトルに偽りあり。確かにフォード対フェラーリという構図にはなっていますが、フェラーリ側はほとんど描写がないことからも明らかな通りそこは全然肝ではない。要はフォードという巨大なクソ会社とシェルビー達が戦う話。破天荒極まりないが抜群のセンスを持つマイルズと冷静沈着なシェルビーが激突しながら開発にのめり込み、ただの跡継ぎと揶揄される会長以下過去の栄光の上に胡坐をかく重役達が繰り出してくるありとあらゆる障害を乗り越えて7000BPMの向こう側にある世界を目指す話。これは全サラリーマンが観なあかんやつ、『下町ロケット』みたいなやつです、見てないから知りませんけど。

監督はジェームズ・マンゴールド。宣伝では『LOGAN ローガン』の監督って推してますけど、ここはクリスチャン・ベールとタッグを組んだウェスタン『3時10分、決断のとき』の監督であることも書かないと勿体無い。無骨な男達が油に塗れながら悪戦苦闘する姿はそのまま西部開拓時代の風景、テスト走行を繰り返してるのも砂塵舞う荒野。そこで鍛え上げられたGT40が跳ね馬フェラーリを追うル・マンでの攻防は焼きついたブレーキのように熱い。マット・デイモンとクリスチャン・ベール、二人の熱演には何にも足すものがないです、完璧。

そんな男達を見守るマイルズの妻モリーの凛とした美しさも魅力的。演じるカトリーナ・バルフは本作で化けた感あり。父の雄姿をラジオ越しに見守る息子のビーターを演じるノア・ジュプも『ワンダー 君は太陽』と比肩する瑞々しさが眩しいです。

最後になりましたが、とにかく実車での撮影に拘ったレースシーンはもう至福としか言いようがない。これはもうとにかくスクリーンで観て欲しいです。

よね