「脚本は雑だがデ・パルマ演出は愉しめる出来」ドミノ 復讐の咆哮 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
脚本は雑だがデ・パルマ演出は愉しめる出来
デンマークはコペンハーゲン。
刑事クリスチャン(ニコライ・コスター=ワルドー)の相棒は年上のラース(ソーレン・マリン)。
夜間パトロールの最中、家庭内暴力事件の出動要請があり、駆けつけてみると、靴の先が血塗れた黒人男性を発見する。
逃げる黒人男性を確保し、事件のあった部屋にクリスチャンが赴くと、部屋の中では別の男性が殺されているのみならず、廊下に積まれたトマトのダンボール箱の中に多数の銃器があるのを発見した。
一方、容疑者を確保していたラースだったが、本部へ通報している隙に、容疑者は手錠を外して逃亡しかけ、持っていたナイフでラースの喉元を切り裂いてしまう。
「容疑者を追え」とのラースの言に従い、建物の屋根伝いに逃げた容疑者を追っていたクリスチャンだったが、容疑者もろとも屋根から転落したために、取り逃がしてしまう。
薄れゆく意識のなかでみたのは、黒人容疑者が何者かに拉致される様子だった・・・
というところからはじまる物語だが、ここまでの演出は微妙な感じ。
巻頭のふたりの刑事の紹介部分はそれほど冴えず、パトロールへ出る直前まで繰り広げていたクリスチャンの情事を俯瞰のロングで撮って、拳銃を忘れるのまでをワンショットでみせるあたりはデ・パルマらしい。
また、黒人男性の靴先に付着した血痕のアップショット、その後の追跡シーン(特に雨どいにしがみついてシーン)のジリジリ感などは、脚本的にはイマイチ感があるにもかかわらず、ピノ・ドナッジオの音楽と相まって、久しぶりにサスペンス映画の焦らし演出が堪能できる。
その後、事件にはテロ組織のISISと米国CIAが絡んで複雑な様相を呈してくるのだけれど、基本的には追跡映画。
新たに女性刑事アレックス(カリス・ファン・ハウテン)と組んだクリスチャンは、件の黒人男性を追うが、その先にはテロ組織の大物がいる・・・
で、追跡の途中で「瓢箪から駒」のように一足飛びにテロ組織の大物のテロ現場に行き当たり・・・という脚本はかなり杜撰で、この中盤はデ・パルマ演出があまり張り込む余裕がない。
さらに、ラースと女刑事アレックスが不倫関係にあり・・・というのは、この中盤では、サスペンスを殺ぐ方向にしか働いていない(ただし、決着の伏線としては活きているのだが)。
で、次の見所はテロ組織のテロ現場。
誰がテロを起こすのかは、あらかじめ観客には知らされており、どのタイミングかもわかっている。
となると、これは『知りすぎていた男』のパターンで、カットバックでみせる演出が採用され、かつ、デ・パルマらしく、徐々にスローモーションで時間の引き延ばしを試みている。
ここも、サスペンスにおける焦らし演出で、ここはやはり見応えがある。
というわけで、デ・パルマらしい演出は随所にみられるが、脚本的には杜撰な感じは否めず、また、魅力に乏しい演技陣もマイナス。
デ・パルマ作品としては、中の下といったところかしらん。
追記>
中盤は追跡映画になるのだけれど、途中で映画祭でのテロが起きる。
ここは、IT駆使のスプリットスクリーンで、ここもまたデ・パルマらしさを感じることができます。