「名作から芸術的要素を取り除いたら」THE UPSIDE 最強のふたり superMIKIsoさんの映画レビュー(感想・評価)
名作から芸術的要素を取り除いたら
オリジナルであるフランス映画版が素晴らし過ぎたので、すぐにこのアメリカ版リメイク作を観てみました。丁度アマプラで観ることが出来ました。
結論から先にいうとオリジナルを観た方は本作を観る必要は全くありません。何故ならかなりの劣化バージョンだからです。
それでも本作はオリジナルに敬意を持って製作されているようで、ストーリー以外でもオリジナルを意識した造りにはなっています。でも脚本・演出・演技・音楽・撮影・編集などのあらゆる面で、オリジナルを超えた部分は皆無です。
オリジナルの流れるような編集が、本作ではハリウッド流の短いカットにされて、安っぽいリズム感にされています。演技も特に黒人俳優の表情に深みがなく、軽いコメディ映画のようです。残念ながらニコール・キッドマンは全く役に合っていません。
音楽に関してもオリジナルに準じた静かな物になっているのですが、全く印象的なフレーズはありません。
中でもオリジナルとの最大の違いは映像です。オリジナルはフジフィルムで撮られていて、芸術品ともいえる美しさなのですが、本作は普通にデジタルで粒子感などどこにもありません。一応4K撮影なんですが・・・。
脚本もアメリカ映画特有のご都合主義が多くて辟易してしまいます。例えば主人公が首にされた後、何故か電動車いすメーカの社長になっていて、人を雇っているのです。そして貧しい家族に新居を買い与えるなどというあり得ない設定が出てきて呆れてしまいます。それも僅か数か月で・・・。
主人公には絵画的才能があって、その絵画を高く売る場面があるのですが、オリジナルではポロック的な絵画で、これなら騙されて買う人もいるかもと思わせますが、本作では小学生以下の落書きで、流石にこれに騙される者はいないでしょう。見てるこちらが馬鹿にされている気分になります。
何故こういう劣化バージョンのリメイク版が製作されるのか、不思議に思われる方も多いでしょう。普通にオリジナル作を上映すれば良いのではないかと誰もが考えるでしょう。しかし映画を字幕で鑑賞するというのは、世界的にみると余り一般的ではないのです。
「洋画は字幕だろ」って言っているのは日本人位で、非常に珍しいのです。アメリカ人で自国以外の作品を字幕で見ている人はインテリ階級なのです。ちょっと驚きですが、そういう物らしいです。だから海外の名作映画をアメリカ映画としてリメイクするということには一定の需要があるのです。
でもそんなこと普通に洋画を字幕で見る日本人には全く関係のないことですね。
本作は名作から芸術的要素を取り除いたらこうなりました、と比較対象として見るべき教材なのかも知れません。