「ヴィンセントの行動の意義とは」ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
ヴィンセントの行動の意義とは
予告編を観て「面白そう!!」と思っていた作品です。残念ながら私の住む地方の映画館では上映されなかったため、DVDのレンタルが始まった今のタイミングでの鑑賞になりました。
予告編を観ていたので、「1600キロメートルの直線の回線を引く実話を基にした映画」という程度の事前知識でした。
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ニューヨークで株の高速取引を進めるトレス・サッチャー社に勤めていたヴィンセント(ジェシー・アイゼンバーグ)と従兄弟のアントン(アレクサンダー・スカルスガルド)。ミリ秒単位の通信遅延が数億ドルの損害に繋がるという高速取引を行っており、アントンは少しでも早く通信できるような設備開発を任されていた。ヴィンセントはカンザスにあるデータセンターからニューヨークの株取引所までの1600キロメートルを山も川も貫いて直線の光回線で繋ぐという奇想天外な計画を練っていた。その計画は以前から不満のあった会社の社長であるエヴァ(サルマ・ハエック)ではなく他社から資金を融資してもらい、独自に計画を実行に移すのであった。
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たった0.001秒通信速度が上がるだけで、500億ドルもの大金を稼ぐことができる。1600キロという長距離を一度も曲がることなく山があろうが川があろうが直線で貫く光ケーブルを敷設する。何から何までまるでファンタジーのようで現実味がありません。でもこれ実話なんですよね。まさに「事実は小説より奇なり」。
調べてみるとかなり脚色が入っているらしいですが、それは映画化にあたって仕方のないことだと思います。「事実を基にしている」という事前情報があると無いとで、作品に対する印象は大きく変わります。デビット・フィンチャー監督の「ソーシャル・ネットワーク」もクリント・イーストウッド監督の「リチャード・ジュエル」も、実話を大きく脚色していることで多少批判はありましたけど、「実話」という情報があることで現実感をもって鑑賞することができ、映画自体がより面白く感じられました。
この映画、役者陣がとにかく素晴らしい。特に主演のジェシー・アイゼンバーグとアレクサンダー・スカルスガルド。
そういえば、「ソーシャル・ネットワーク」の主人公であるマーク・ザッカーバーグを演じたのも、今作の主人公ヴィンセントを演じたジェシー・アイゼンバーグでしたね。彼にはこういういけ好かないインテリ意識高い系やらせたら右に出るものはいないと思います。映画の後半でとある人に電話をかけるシーン、立て板に水とはまさにこのこと。30秒くらい息継ぎほぼ無しでラップのように放たれるマシンガントークは、シリアスな場面なんですけど思わず笑っちゃうくらい凄かったです。これはジェシーにしかできない芸当だと思います。
そしてアントン役のアレクサンダー。恥ずかしながら本作で初めてアレクサンダーの演技を拝見しましたが、髪を剃ったりする役作りも含めて非の打ち所がない完璧な演技。神経質でオタク気質な役がめちゃくちゃハマり役に感じましたが、普段の彼はパッチリした目が可愛らしい線の細い超イケメン。ギャップにやられてしまいました。
ストーリー面ですが、正直中盤くらいまでは微妙に感じてしまいましたね。1600キロメートルの直線光ケーブルを引くという奇想天外な計画、さぞかし大変なんだろうなと思いきや、些細な問題が出てきますがほとんど苦労もなくクリアしていき、トントン拍子にケーブル敷設が進んでいきます。後半に大変な事態が発生しますが、それは特に解決することもなく終わります。もうちょっと「苦労の末に完成」みたいな演出があれば良かったのにな~と思いつつ、でも実話を基にした映画なので映画の盛り上がりのために勝手な創作を入れるべきではないとも思います。ここは実話を基にした映画の難しいところです。
映画のラストは決してハッピーエンドとは言えないけれど、ヴィンセントとアントンは何か大事なものを得た終わり方になっており、これはこれで良かったと思います。素晴らしいラストでした。
個人的には非常に楽しめた良作でした。作品のテイスト的には「ソーシャル・ネットワーク」「マネー・ショート」に近いように感じましたので、そういう系の映画が楽しみたい方にはオススメです。