「圧倒的なビジュアルによる、武俠ファンタジーアクション」SHADOW 影武者 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
圧倒的なビジュアルによる、武俠ファンタジーアクション
最近では「キングダム」で王嬴政(エイセイ)の身代わりに仕立てあげられた漂(ヒョウ)が影武者だった。
「スター・ウォーズ ファントム・メナス」のアミダラ王女と入れ代わっていた侍女は、王女が身分を隠してパドメと名乗って活動している間王女に成りすましていた替え玉だが、広義の影武者か。
黒澤明監督の元祖「影武者」では、武田信玄の死を隠すための影武者だったので、本物がこの世にいない。
影武者は、王や世継ぎを守るために敵の目を眩ませる替え玉というのが一般的。
本作は、王ではなく都督(トトク)という官職に影武者を立て、王をも騙していたという設定が特徴。
あいにく、三国志はおろか中国の戦国時代については全くの無知。
父親の暗殺をきっかけに、叔父が似た子供を影武者として育てたというのだから、官職も世襲制なのだろうか…。単に貴族家系の跡取りということか。
殿中の装飾、終始降り続ける雨に煙る遠景、水墨画を連想させるモノトーンの色彩は、海外(西洋)の鑑賞者を意識したようなあざとさは感じたが、美術、衣装、音楽がシンクロして、チャン・イーモウの映画美学を見事に体現している。
特に、すべてのカットで絵画的な構図を見せた撮影は素晴らしい。
映像美を堪能させるための物語構成で、三国志の一篇をかなりアレンジしているのは、オリジナルを知らなくても想像できる。
スローモーションで水しぶきを効果的に使って躍動感を演出した雨中の激闘シーンは、ウォン・カーウァイの「グランド・マスター」を連想させた。あの映画も映像を見せるためだけの物語だった。
とはいえ、下敷きを知らない自分には物語もそこそこ楽しめた。
若き王(チェン・カイ)は、実は内通者の存在も影武者のことも分かっていて、情報操作によって領土奪還を謀った策士だったのか。
王の妹(クアン・シャオトン)がパルチザンに潜り込んだのは、自分を側室に迎えるという陵辱への怒りだけが理由だったのか。
中越典子似の奥方シャオアイ(スン・リー)は、影武者との情事を実の夫が覗き見していたことを知って、自分の不貞を恥じたのか、夫の狂気に恐れを感じたか。
エンディングのシークエンスで、シャオアイは勇者として帰還した影武者との将来に一瞬は夢を見たはずだが、目の前で繰り広げられる惨状に恐れおののき、影武者をも拒否する姿は説得力があった。
そして、我にかえった彼女の行動のその先は…。
影武者と都督本人は主演のダン・チャオが減量して(デ・ニーロ・アプローチ)演じ分けた二役だが、見事すぎて逆に似ているように見えなかった。
前半のもたついた進行には我慢が必要だが、傘を武器とする戦法にたどり着いたあたりからクライマックス、エンディングまで息をつかせない。
新兵器でパルチザンが町に攻め込むシーンの斬新さは、まるで宮崎駿。
farさん、コメントありがとうございます。
ネタバレさせたつもりはなかったんですが、すみませんでした。
これからご覧になる方に事前情報としてインプットされても良いかと思いました。
ご覧になったら、是非ご意見お聞かせください。