「失業保険を使ってコレクションを作り、ショーを開催していた、そんなロ...」マックイーン モードの反逆児 yukarinさんの映画レビュー(感想・評価)
失業保険を使ってコレクションを作り、ショーを開催していた、そんなロ...
失業保険を使ってコレクションを作り、ショーを開催していた、そんなロンドンのイーストエンド出身の青年が、27歳でジバンシーのクリエイティブディレクターに抜擢され、自身のブランドも立ち上げ、その後グッチグループの投資を受け、34歳で大英帝国勲章を授与されるが、40歳で自ら命を断つ。
これだけ聞いても十分、アレキサンダーマックイーンという人が凄い人だとわかる。
そして、この最後の選択が重く心にのしかかる。
ドキュメンタリーとして描かれた本作を観ると、その非凡さを改めて見せつけられる。
どれだけ努力しても得ることの出来ない天賦の才、それをこの人は持っていて、その才能が見事に活かされるデザイナーという仕事に出会えた。
失業保険で生地を買って、ショーを開いているから、顔は出せなかったと笑って語るリーと呼ばれる青年。
仲間たちとふざけ合って、笑っている姿。
けれど、成功とは反比例して、彼の表情からはその明るい何かが消えていく。
作中で、脂肪吸引をして痩せたと語っていたけれど、それ以降、ぽっちゃり気味だった彼の身体は、むしろ痩身になっていく。
St. Martinsの卒業コレクションで彼を見出し、その後ジバンシーに抜擢されるまで、彼をサポートしていたイザベラブロウ。
末期がんにおかされていた彼女の自殺という選択。
彼女の夫は、その葬儀の時の彼の姿に心が痛んだと語り、彼の姉は、イザベラが彼にとっては、母と姉の間の存在だったと語る。
彼は、周囲の人たちが気づくくらい、危うい方向に向かい始める。
それでも彼は仕事を続ける。ジバンシー時代と同様に年14回のショーをこなしながら。
ブランドを支える人たちの生活への責任があるから休めないんだと語る一方で、マックイーンというブランドのショーは誰にも引き継げない、自分が仕事を辞めるときは、誰も働けないように会社を焼き払うよとも語る。
本人がラストコレクションと決めていて、実際にそうなったそのショーを前に、心中をかつての仲間であり友人に語っていた。
もう耐えられない、終わりにしたい、と。
そのショーの最中も闘病していた最愛の母親が、その後亡くなる。
姉は、彼が母親の死を恐れていたと語る。イザベラを失った彼には無理だった、母の病気を受け入れることが出来なかったと。
母親が亡くなった時、自身も悲しみに暮れているにもかかわらず、その家族たちが心配するほど、取り乱し、壊れてしまっていたという彼。
そしてとうとう、母の葬儀の前日、彼は自らの手で人生を終えてしまう。
限界、だったのだろうし、姉の語る通り、崇拝していた母を失い、かろうじて保っていた生きている理由のようなものを失ってしまったのかもしれない。
話してる彼の持つ明るさ、そして仕事ぶりには強さも感じるのに、多くの芸術家がそうであるように、素晴らしい感性と紙一重に存在する感受性の強さと繊細さを持っていたのだろう。生きていく上では、厄介なほどに強く脆いそれを。
人から見れば、才能に恵まれ、早くに成功を収め、華やかな世界に生きる彼の人生、その日々の裏にあったもの。
心がとても痛い。
時々、仕事や人生が空しい
人生に感謝してるから腹は立たないよ
でも僕は引き時を知ってる
I seem sad at times about my work and my life
I'm sad, but I'm not bitter
because I'm grateful for everything that's happened in my life
but I know when the times is to give it up.