「他のLGBT関連の映画とはちょっと違う趣き」ある少年の告白 JYARIさんの映画レビュー(感想・評価)
他のLGBT関連の映画とはちょっと違う趣き
それは実話だからだろうか。
軽々しくあらすじなど話してはならないような空気感が全体に漂う映画でした。
前半、少年が同性愛を告白するところ。
ここで怖いのが、
母親が平気で「導いてくれる」と言ったり、
父親が「お前を救う」だの言ったり、
さらりとそんな表現をしてしまうのが、怖かった。
一般的な人はきっと、その言葉の意味はわからないだろう。
彼が自分をさらに乏しめるような、
そんな表現をしてしまってることも。
カミングアウトしたとき、
言ってほしい言葉なんてないけど、
せめて、"息子は息子"だと、どんな人を愛そうが、
彼が愛する自分の息子であることには変わりない。
そう説明した上で、
息子の人生が幸福になるよう願うのが、
そばにいる者の努めなのではないだろうか。
母親は、自身の考え方を変えることで、
息子との関係性を取り戻すことが出来た。
「神は私を愛してる、私は息子を愛してる」
受け入れられないことは、どんな無茶な理論でもいいから
腑に落ちる何かを見つけることで、考え方を変えることができる。
それが本来の共存の形だと、思い知らされた。
母親の中で、宗教よりなによりも息子への愛が勝つのが
すごくよかった。
自分の兄弟と母親の関係を思い出したのだけれど、
彼らって他の何とも似つかないような愛の在り方を持っているよね。
『ベンイズバック』を思い出した。
(ジュリアロバーツの方が自然体でいいのだけど、
本作のニコールキッドマンは良かった。
とくに、施設から去る場面は最高。
美人過ぎて母親役には向かないと思っていたが、
あれはもう母以外の何でもなかった。)
それが出来なかったのが父親で、
終盤の息子と対面するシーンは見ごたえがあった。
彼はただでさえ、人と違うことでつらい目に合っているのに
何故さらにつらい目に合わなくちゃいけないんだろうと思った。
家族にも受け入れられないって、そんなつらいことはないよ。
そしてこの映画のもうひとつのテーマである「治療」
私から言わせてもらえば
「治療で変われるものなら、そりゃ変わりたいさ」
ってなところで。
それ程に治療って無意味というか、
なんだろう、目ん玉ないのに眼鏡してるみたいな。
(全くうまくない例えだし、不快な文章になってしまった)
でもそれくらい、本当に無意味。
だって、治す"根本"は誰も知らないから。
当事者にだって、何故異性ではなく同性を好きに
なってしまうかってわからない。
原因なんてないし、傾向はあるだろうけど。
しかも、この矯正施設の悪いところって、
未成年ばかりじゃないですか。
同性愛者の人って、大人でさえ、
悩みや葛藤抱えてる人が多いと思うんですよ。
その途中経過である思春期に、偏った刷り込みを
与えるなんて重罪ですよもう。
個人に対する"社会からの否定"だもん。
本当はその逆で、そういった人々が
傷を癒したり、共感しあったりする施設が必要なんだ。
大体、あの施設にいる少年少女は内側が見えないし。
隠しているかのように、殻にこもるようになってる。
ドラン演じた彼も非常に嫌な役どころだったけど、
何かを内に秘めた末路な気がします。
(ドラン、コンプレックスを感じる演技が
この作品にマッチしてた。)
ラストシーン。
彼は懲りずに左手を窓から伸ばす。
まるで
「どれだけ傷ついても、自分の欲望に従う」
ように。