「母と息子の関係性」母との約束、250通の手紙 しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
母と息子の関係性
フランスの作家、ロマン・ガリの自伝を元に、彼と母との関係を描いた作品。
とにかくドラマチックで物語向けだなぁというこの人物の経歴。フランス外交官を勤め、文学賞を2度受賞し、映画監督でもあったようだ。
それら全てが、母が息子に託した夢を叶えたものであった、という話なのだが、この母のキャラクターが、エキセントリックで面白い。
現代なら毒親と叩かれるレベルだが、まあ母親ってこういうところあるよね、という、子供への期待や押し付け、過度な愛情、世間への見栄、独占欲、保護心などが、大分誇張した形で描かれている。
煩わしく、恐ろしく、嫌悪を抱かせる一方で、滑稽で、哀れで、弱くて、強くて、人間臭くて、仕方ないなぁと、何処か愛おしさも感じる。
自らも事業主として、女手ひとつで、息子をひとかどの人物に育て上げようと奮闘した。ロマン・ガリの回想という形だが、多くの部分が、母の伝記物語でもある。
この母を筆頭として、ステレオタイプでちょっと意地の悪い誇張のされ方をしたキャラクターとして、幾人かの個性的な女性が登場するが、反して、男性の登場人物は余り尖った特徴もなく、父親については言及もされない。女性に振り回されがちな人生だったという表現だろうか。
ガリの最後は自殺だったらしい。数々の栄誉を得ながらも、虚しさを抱えた人物として、この作品はその後のガリを描いている。
人生の支柱を、自らの内ではなく外に立ててしまうと、外界や他人の変化に揺さぶられ、グラグラと不安定に揺れ動いてしまう。幼いガリは、母の期待と愛情に答えようと、評価基準を母の承認に置いてしまった。それが得られないその後の人生、どれだけの成功も、彼を満たす事はなかったのだろうか。
一人では生きていけない。自分を満たすだけの生は虚しい。けれど切り売りし、与え過ぎるのも、また自らを蝕む。生きる事は難しい。