雪子さんの足音のレビュー・感想・評価
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深みのない凡作
下宿というものに縁がなかったので、いまひとつピンと来なかった。昔かぐや姫が歌った「神田川」の歌詞に「三畳一間の小さな下宿」があるが、下宿がどのようなシステムで運営されているのか、未だによくわからない。
吉田拓郎の「我が良き友よ」の「語り明かせば下宿屋のおばさん酒持ってやってくる」という歌詞からすると、下宿は大家や他の住人との信頼関係を前提に成り立っているように思える。鍵のかかるアパートやマンションが閉鎖的なのに対して、かなり開放的である。そういう時代だったのだろう。今は子供部屋にさえ鍵がかかる時代だ。
さて雪子さんの経営する下宿屋「月光荘」に越してきて三年目、大家の雪子さんと隣の部屋の小野田さんの二人の女性から応援すると言われた薫だが、日常生活の舞台である下宿屋で世話をするということは、掃除洗濯と食事と、それに場合によっては性欲の処理である。本作品は上品な映画でそのあたりのことを少女漫画みたいに上っ面で済ませていたが、もう少し突っ込んで表現してもよかった気がする。
餌付けされている金魚を自分に重ねて女性不信になってしまう主人公だが、必ずしも不幸な人生という訳ではない。この作品のフードコーディネーターはかなり優秀で、出てくる料理が全部美味しそうに見えた。学生時代にあんな手料理を食べられるのは大変な贅沢である。薫は実は胃袋を掴まれていたのではなかろうか。
佐藤浩市と親子共演を果たした主演の寛一郎は、なかなか味のある演技をする。本作では弱気で挙動不審な学生を演じたが、肚の据わった役もできそうである。
雪子さんを演じた吉行和子は流石の存在感であった。微妙に気持ち悪い老女のエキセントリックな不気味さをよく引き出している。
隣の部屋の小野田さんの役の菜葉菜は、佐藤浩市と共演した「赤い雪 Red Snow」で一皮剥けた印象があり、癖のある役柄を上手にこなしている。本作でコケティッシュな側面を見せられたのは収穫だったのではないか。
ということで俳優陣の演技もよく料理も美味しそうだったのだが、映画自体はあまり面白くなかった。坦々とした平板なドラマでも、登場人物たちに人間的な深みがあればそれなりに楽しめるのだが、本作品にはそういう人物は登場しない。プロットが浅いのだ。
エロスも半端、料理も半端、人間関係の掘り下げも半端では、観客は誰にも感情移入できないし、どこで感動していいのかわからない。一生懸命作った方々には申し訳ないのだが、凡作と評価させていただいた。
イケメンの困り顔バリエーションを堪能
謎めいていて、いろいろと空想の捗る映画ですが…物語の語り手、薫くんを演じる寛一郎さんの演技力も見どころのひとつです!
寛一郎さんの表情の豊かなこと!特に、困惑した顔のバリエーションが素晴らしかったです。顔のアップが多い映画なので、たっぷり堪能できます。目に、眉に、気持ちが細かく表現されていて、セリフ以上に感情が伝わってきました。
初日の舞台挨拶で、吉行和子さんが「撮影で一番楽しかったこと」を聞かれて「寛一郎くんの困った顔を見るのが楽しかった」と仰っていたのもなるほど!と思えました。
じわじわと具現化される普通の人の欲望の様か?
静かな映像のなかに少しずつ泡立ち始める狂気と、寛一郎さんが呑み込まれるのかどうか、行きつ行かれつ、細やかな表情から伝わる戸惑いをゾクゾクしながら感じました。
普通の人の奥底に静かに眠っている欲望がじわじわ具現化される様は、まさに真綿で締め上げられていく感じで、寛一郎さんの眉の歪みがええ感じです。
終わったらごはんが食べたくなります。とくにうどん。
ちょっと怖い大家の雪子さん、その大家さんのアパートに入居した大学生の薫くん、同じく入居者の女の子の小野田さんのお話。
美味しそうな食べ物がたくさん出てきます。
主演の雪子さんを演じる吉行さんと浜野監督へのインタビューによると、地元の調理専門学校が協力しているとか。
https://cinema.co.jp/column/satori-ito/article/276
寛一郎さん演じる薫くんが料理をおいしそうに食べるので、終わったらごはんが食べたくなります。
私はうどんが食べたくなりました(笑)。
はっきりとは出てこないけど、大家さんの雪子さんは、主人公の薫くんに恋をしてるんじゃないかなと思います。
薫くんも薄々気づいてるけど、認めることは出来ないし、受け入れることもできない。
一方で薫くんは、おいしいご飯を出され、おこづかいももらって、胃袋と財布を掴まれてだんだん困惑していく。
薫くんは作品中、一貫して受け身で、多くの場面で眉毛八の字の困り顔。
薫くんがもっとちゃっかりした男子だったら、お互いうまくいっただろうにな…。
吉行和子さん、とてもきれいです。
原作の雪子さんは願望を叶えられなかったけど、映画では叶えられたのかも。
また、もう1人の登場人物である小野田さんも心に残ります。
どうしようもない深い孤独と長い苦しみ。
お金を出してでもすがりたいときってあるよね…と、原作からすると同年代の小野田さんに、ちくちく痛む胸で共感してました。
幸せになってほしいと心から思います。
私もこれから歳を重ねて、おせっかいおばさんになっていくのでしょう。
誰かにおせっかいをするたびに、自分のなかの雪子さんと出会い、自分を戒めたり、笑ったりするんだろうな。。
折に触れて思い出すことになるだろう、心に残る映画。
吉行和子さんが、エロ恐かわいい!
木村紅美の原作のもの悲しく胸がぞわぞわする感じはそのままだが、吉行和子、菜葉菜、寛一郎、大方斐紗子、野村万蔵といったチャーミングな俳優たちのおかげで、登場人物ひとりひとりは、ずっと人間味にあふれ、魅力的だ。
優柔不断でずるくて煮え切らない薫君も、寛一郎のせつない表情のせいで、ちっとも悪く思えない。
雪子さんは息子にも、おいしいご飯を食べさせて、結局彼を食べてしまったのかもしれない。恐いし、毒親なのかもしれないけれど、やっぱりすこしも憎めない。
雪子さんとお友達の高梨秋江さんを見て――祖母や母たち世代の女性の話を、もっともっと聞いておけばよかった、聞いておかなければと思った。
きれいな爪切りが、ほしくなった。
『雪子さんの足音』の続編が、ぜひ読みたいし、観てみたい。
距離
原作未読
出張先のホテルで読んだ新聞で学生の頃に下宿していた月光荘の大家、川島雪子さんが孤独死をしたのを知り20年ぶりにアパートを訪れるところから当時を振り返るストーリー。
2年間悩まされた「騒音」がなくなり程なくして夕食に誘われたところから雪子さんとの交流が始まり次第にお小遣いを貰ったり、色々と踏み込んで来られるようになるが…。
201号室の存在もあり、取り込まれるのか襲われるのかとホラー的な不気味さが漂いつつも、恐さや緊迫感はないし、コミカルという程ではないけどどこか吞気な感じもある展開。
終わってみれば肩透かしの様な、やはりコメディの様な話だけど、笑いどころも膝を打つ様なものもなく残念な感じ。
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