劇場公開日 2020年8月8日

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「若い世代が戦争や被爆の記憶に触れる扉となり、響きとなりうる一作」おかあさんの被爆ピアノ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0若い世代が戦争や被爆の記憶に触れる扉となり、響きとなりうる一作

2020年8月17日
PCから投稿

この映画では題名にもある「被爆ピアノ」やその「響き」を媒介に、若きヒロインがこれまで知らなかった祖母の経験を自らの意志で知りたいと望む。とはいえ、記憶を直接語って聞かせてくれる当人はもうこの世にいない。両親も進んで教えてくれようとはしない。大学生という大人でも子供でもない時期、胸の中では過去の思い出と将来への期待や不安が入り混じる中、いつしか彼女は頭で考えるのではなく行動力で「広島行き」を決める。それを無理強いすることなく、諌めながらも導いていく調律師役の佐野史郎の抑制された存在感がいい。親と子以上に年齢の離れた二人がこうして各々に使命を感じながら何かに打ち込んでいく姿に、思いがけないロードムービー感覚と、フレッシュな語り口を感じた。「おかあさん」側の葛藤や、ピアノを愛した祖母の人生など、もう少し詳しく知りたかった点も多いが、若い世代が戦争の記憶に触れる「扉」となりうる大切な一作かと思う。

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牛津厚信