「ファンしか観る必要はない。ファンなら観ておくべきかも。」シークレット・チルドレン 禁じられた力 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ファンしか観る必要はない。ファンなら観ておくべきかも。
これはただティモシー・シャラメのファンが一応チェックしておくためだけの映画だろう。あえて見なければならない映画ではないし、シャラメのファンだとして楽しめる映画だというわけでもない。「君の名前で僕を呼んで」で彼の妖しい魅力に惹かれたファンを狙ってブレイク前の主演作を掘り出してみた、ただそれだけの映画だとしか言いようがない。
文明から遠く離れたところで、文明から離れた生活を送る一家には秘密があり、唯一秘密を持たない父親の横暴さに嫌気がさした兄妹のとる行動などが主に描かれているように思うが、正直なところ、主題が何たるかもいまいち伝わらないし、結局何が描きたい物語だったのかもよく分からない。兄妹の持つ特殊能力や母親の秘密の正体が語られないのはまぁそういう手法だと思えばそれもアリだとは言え、だからそれが何だと言うのだ?と首をかしげるばかり。社会を生きづらいと感じている少年少女の息苦しさの暗喩だとかいうことでもなさそうだし、生まれながらに十字架を背負った者の試練だという風でもないし、ただ特殊能力を持った兄妹が愚鈍かつ横暴な父親からひどい虐待を受け、しかしいずれ復讐を果たし、忌々しい家に火をつけ・・・終わり。その筋書き以外のものを感じる要素が何もない。
ただ、もし「君の名前で僕を呼んで」でティモシー・シャラメに魅了された人であれば、やっぱり押さえておいてもいい作品かも知れない。ストーリーに楽しめる様子は少ないが、ティモシー・シャラメ自体を眺める分には十分だと思うからだ。というのも、2019年現在シャラメ自身がもうしっかりと大人の男性へと羽化しており、「君の名前で僕を呼んで」に焼き付けられた「少年」と「青年」の狭間を行き来するような危うさが消えかける中(大人になって新たな魅力も出てきているのでそれはそれで良い)、この映画の中にいるシャラメは「君の名前で僕を呼んで」で見つけた少年性と妖しい魅力をちゃんと放っているからだ。
この先オスカー候補入りが期待されている「ビューティフル・ボーイ」や、シアーシャ・ローナンと再共演する「若草物語」などが日本でも公開されるだろうが、「君の名前で僕を呼んで」の時のような少年性はもうないかもしれない。だとすれば、この映画は知っておいてもいいのではないかと思うし、その姿をじっくり愛でておいてもいいかもしれないと思う。