「グッと来なかったのはタメが足りなかったからかな。」アラジン ウシダトモユキ(無人島キネマ)さんの映画レビュー(感想・評価)
グッと来なかったのはタメが足りなかったからかな。
ちょうど良かった。
映画の中に「自分を重ねるべき登場人物がいない作品」って、自分にとって大事な1本になることはあんまりなくても、気軽に楽しめるっていう意味では楽しい。
ウィル・スミスがウィル・スミスなりのジーニーで楽しかった。ジーニーが登場して、歌って踊りながらルール説明するミュージカルシーンが良かったなぁ。
次女ナツナのお気に入りの場面は、ジャスミンが『スピーチレス』を歌う場面と、アラジンが最後の願い事をする場面とのこと。
中学2年生の女子なので、「魔法の絨毯でホール・ニュー・ワールド」の場面を挙げてくるかと思いこんでいたら、そうでもないのねー。
アニメ版よりも実写版のほうがジャスミン役の女優さんもキレイだし、悪役ジャファーも深めに描かれてるし、アクションも多くて楽しかったので、次女ナツナは満足とのこと。
「パパはどうだった?」と聞くので、「イイ場面はたくさんあったよね。」と。
次女ナツナが挙げた、スピーチレスの場面、最後の願い事の場面、魔法の絨毯のホール・ニュー・ワールドの場面、どれもイイ場面だった。
スピーチレスの場面は、自立した女性像の、イイところを描いてる。
最後の願い事の場面は、アラジンとジーニーの友情の、イイところを描いてる。
魔法の絨毯の場面は、アラジンとジャスミンの恋愛の、イイところを描いてる。
でもそのどれも、泣けるほどグッとは来なかった。
なんでグッと来なかったかというと、そのそれぞれの要素に“タメ”が足りてないからだと思う。
例えばジャスミンの自立に対して、父の国王が「抑圧」になってない。
例えばアラジンとジーニーの友情に対して、「すれ違いや仲違い」を経て仲良くなったとかいう積み重ねがない。
例えばアラジンとジャスミンの恋愛について、別国の王子とかジャファーとかが「恋のライバル」になってないし、身分格差も魔法によって埋められている状態でのホール・ニュー・ワールドだから、恋に落ちる気分の高揚と魔法の絨毯の飛翔がうまく相互作用してない。
それらの要素のすべての障害を、悪役であるジャファーが引き受ける分担になっているんだけど、そのジャファーの意志が「国王としての権力の座」にしか向いていないので、女性の自立や身分格差の恋愛に対しての壁になれていない。
だからもう少しジャスミンの父親である国王の人物造形を、主人公たちを抑圧する存在として描けていたら段違いに面白くなったんじゃないかなと思ったかな。
とはいえ、あまりストレスなく物語が進んだからラクで良かったんだけど。