「運命に逆らってでも、僕たちの想いは、新しい世界へ」HELLO WORLD 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
運命に逆らってでも、僕たちの想いは、新しい世界へ
昨年は多くのアニメ映画が公開されたが、大ヒットした『天気の子』や著名監督の作品以外スルー。
本作なんて『二ノ国』とどっちがどっち?…ってくらいだったが、見てみたら意外と良かった。
ただ、小難しい…。
2027年の京都。
読書好きな内気な男子高校生・直実の前に、10年後の2037年から来たと言う自分=青年のナオミが現れる。
彼曰く、3か月後に恋人同士になる同級生の瑠璃が事故で命を落とすという。
彼女を救う為現れたナオミに、直実は協力するのだが…。
…と、始まり方やメインの話は難無いのだが、難有りなのは世界観や設定。
実はこの2027年の世界は、貴重な歴史やあらゆる過去の出来事を保存するシミュレーター“アルタラ”が造り出した仮想世界。
直実もその中の“記録”に過ぎない。
ナオミは現実世界の2037年からアバターとしてアクセス。(よって、2027年の世界では直実以外には見えない)
世界(=記録)に反してでも、瑠璃の運命を救おうとする。
その為に、アルタラの自動修復システム“狐面”に狙われる。
明かされた現実世界に隠された衝撃の秘密、今と未来、仮想世界と現実世界、青春ラブストーリーとSFが複雑に交錯。
クライマックスはある意味、整理や追い付いていけないほどの展開。
そして、“ラスト1分で全てが覆る”。本当にこのラストは、ど、どーゆー事…!?
SF設定はなかなかに小難しいが、既存のSF作品を数多く彷彿。真っ先に思い付くのは、『マトリックス』。『インセプション』のようなシーンもあり、作り手の好きなSF作品をたっぷり詰め込んだとか。
愛する人の運命を変える…青春ラブストーリーは『君の名は。』の影響濃厚。実際、『君の名は。』のメガヒットを受けて当初の脚本から大幅に変更されたとか。
でも、本作は本作で胸キュン。
同級生でも全く接点の無かった直実と瑠璃。
二人のこれまでが記されたナオミの“最強マニュアル本”と恋の指南によって、恋路がスタート。
“初接触”は最悪。
でも、同じ図書員で同じく読書好きという事もあって、少しずつ距離が縮まっていく。
マニュアル本の中には、時に瑠璃を悲しませる出来事も。
マニュアル通りとは言え、直実はそれに反する。結果、二人の関係が急速に近付く。
普段は八咫烏姿だが、“グッドデザイン”というこの仮想世界で能力を発揮する特訓も。
遂に運命の日…。
瑠璃を死の運命から回避させる事に成功!
晴れて二人の気持ちが結ばれた時…、ナオミが現れた真の目的が。
この事故で本来死んだ筈の瑠璃は、実は2037年の現実世界で今も脳死状態。
ナオミの真の目的は、この仮想世界で直実への瑠璃の恋心が100%になった時、2037年の世界へ連れ去り、脳死状態の瑠璃の身体へ上書きする事だった。
この2027年での直実の頑張りも、全てナオミの真の目的の為のお膳立て。
さらに、目的が済んだナオミは、2027年の仮想世界を消そうとするが…、アルタラが暴走。
2027年と2037年、両方の世界消滅の危機…。
青春ラブストーリーを軸に、壮大なスケールと展開に。
“先生”と呼んでいたナオミに裏切られ、無力な自分を痛感する直実。
が、初めて愛した人を救いたい。もう一度、会いたい。あの笑顔が見たい。…
例え自分が仮想世界の記録であっても、世界(=運命)を変える。
それはナオミとて同じ。
頼りがいのある“先生”から一転、自分がヴィランとなるが、ナオミの瑠璃を救いたい、もう一度会いたい、あの笑顔が見たいという強い気持ちに嘘偽りは微塵も無い。図書室で流したあの涙は本物で、胸熱くさせられる。
自分の事を“エキストラ”だと言う直実。
が、終盤でナオミは、自分こそが“エキストラ”と言う。
しかし、“1分で全て覆るラスト”や作品を見終わって思うと、ナオミこそが真の主人公だったと思う。
だって、直実もナオミも同じ人を愛した自分自身なのだから。
本作はオリジナルの作品。
既存の作品の影響や寄せ集め、伏線張られよく練ってあるようでただ複雑な感じも否めないが、オリジナルのSF青春ラブストーリー・アニメーション映画を作ろうとした意欲は評価したい。
直実=北村匠海、ナオミ=松坂桃李、瑠璃=浜辺美波のそのまま実写化も出来そうな人気俳優による声もそう悪くない。
でも、京都が舞台なのに皆、標準語なのは如何ともし難い…。
キャラデザインは『けいおん!』の堀口悠紀子。
好み分かれるキャラデザインだが、自分は『けいおん!』にハマったので、有り!
特に、瑠璃。
クラスでも堂々孤立し、“近付くだけで噛まれそうな孤高の狼”のようだが、美少女。
不器用で、か弱い一面も。
守ってあげたくなるヒロイン。
ふとした時や心を許した時の表情、“もう一度見たかった”笑顔は反則級!
男はこういうギャップに弱いんです。
自分的にはスゲー名字のクラスの可愛い系マドンナこそ“エキストラ”であった。…いや、ただの背景かな。