「何層にも重なった世界の王道ラブストーリー」HELLO WORLD ヤスリンさんの映画レビュー(感想・評価)
何層にも重なった世界の王道ラブストーリー
近未来の京都を舞台に繰り広げられる、少年少女のSFラブストーリー。監督は「ソードアート・オンライン」シリーズの伊藤智彦、キャラクターデザインは「けいおん!」シリーズの堀口悠紀子。学生時代僕が4年間過ごした京都が舞台、しかも監督・キャラデザのファンとしては見逃すわけには行かない!と、早起きして朝一の上映に行ってきました。
物語は2027年、アルタラ(量子記憶装置)によって街の記憶が始まった近未来の京都。主人公の堅書直実は引っ込み思案の内気な高校生。そんな彼の前に謎の男が現れます。それは10年後の自分自身。もう一人の”ナオミ”は彼に言うのです。「お前は彼女を作りたがっている!」そしてこう続けます。「彼女は出来る。同級生の一行瑠璃だ。でも彼女は3ヶ月後の花火大会の日に落雷を受けてしまう。どうかお前の力で彼女を助けてくれ!」と。そして10年後のナオミを先生として、一行瑠璃を助けるために恋にスキルに奮闘努力が始まるのです。
このお話は、いわゆる「大好きな女の子のために男の子が命がけで頑張る」という、昔から有る王道ラブストーリーです。古くは「天空の城ラピュタ」であり、最近では「君の名は。」や、今上映中の「天気の子」がこれに当たります。これらの作品の肝は、観客にどれだけヒロインが可愛いかと思わせることと、主人公にどれだけ感情移入させられるかと言うこと。
まずヒロインの一行瑠璃ですが、これが非情に可愛い!実は最初主人公は同じ同級生の勘解由小路三鈴に淡い恋心を抱いています。彼女は明るく社交的な学校のアイドル。それと比べると瑠璃は見た目こそ美人系だけれど、無口で表情が乏しく社交的で無いため、一部の人間からは本好きの変人扱いをされています。しかし、先生(ナオミ)の指示に従って彼女と親密になっていくにつれ、その可愛らしさが発見されていくのです。無表情に見えるけど、実は目がくるくる変わり表情が豊かなこと。本が本当に好きで本の話では饒舌になること。図書館の新刊のカードに最初に名前を書くのがとても嬉しいこと。次第に心引かれる主人公と一緒に、観ている我々観客も彼女の虜になっていくのです。そして古書祭りの後の告白シーンで、彼の告白に応じて真っ赤になる彼女を観て、我々も胸をズキュンと射貫かれてしまいます。順を追って親密度が増していくこの演出が実に心憎い!
次に主人公ですが、二人のナオミ(高校生の直実と10年後のナオミ)が存在することによって、幅広い層から感情移入しやすい話になっています。若者は当然高校生の直実に素直に感情移入するでしょうし、僕のような年配の人間は10年後のナオミに感情移入してしまいます。純粋に初めての恋を突き進む直実と、一度大切な人を失い、必死になってもう一度彼女を取り戻そうとするナオミ。個人的にはやはり大人のナオミの方に僕は感情移入してしまいました。大切な肉親を失った経験者としては、もう一度愛する人に会いたい思いは、本当に心に突き刺さってくるのです。
さて、物語は瑠璃を落雷から助けた瞬間から大きく動き始めます。今まで自分の味方と思っていたナオミ(10年後の自分)が、自分を裏切って瑠璃を連れ去ってしまいます。彼の目的は過去のデータ世界(高校生の直実がいる世界)から未来に瑠璃を連れて行き、植物状態の彼女を目覚めさせること。そのためには過去の自分を犠牲にしても構わないと考えています。一度は諦めそうになる高校生の直実。しかし、瑠璃のことを心の底から大切だと思った直実は、八咫烏(電脳パートナー)の力を借りて10年後の世界に向かいます。
そしてさらに驚愕の事実が!?なんと、その世界もデータ世界だったのです。イレギュラーである瑠璃と直実を消そうとする修復システムが大挙して二人に襲いかかります。その時、彼を助けたのは一度自分を裏切った10年後のナオミ。彼は言います。「俺を消せ!俺が消えれば二人の直実が存在するイレギュラーが無くなる。それで世界が救われる。」と。
正直この後半はちょっとガチャガチャしています。アクションシーンをテンポ良く見せようとするがあまり、時空転移の説明が不足がちになり、パラレルワールド物に慣れていない人は理解不能で頭抱えるかも。その結果、最後の大どんでん返しを「夢落ち」と勘違いしている人も多いようです。実際レビューでも「なんだよ、夢落ちかよ!」と怒っている人もちらほら。よく観れば、シンクロゲージが100%に到達するシーンと、大人になった一行瑠璃が「やってやりました!」と泣く台詞があるので、瑠璃が現実世界で何かしらアクションを起こして直実を助け出したことが分かるはずなのですが。あそこは多少ラストが冗長になっても種明かしがあった方が良かったのでは?と思いました。
まあ、かく言う僕も完全に理解出来たわけではありません。瑠璃が助け出したのは、高校時代の直実だったのか?(その場合、落雷に遭ったのは瑠璃ではなく実は直実だった)それとも、10年後の世界で高校生の二人を助けるために自ら消えたナオミだったのか?これはもう一度観に行くか、BDが出たら何回も見直して理解するしかないのかも。
それと、元京都市民としては、京都の街中の距離感がおかしいことにツッコミを入れたくなりました。冒頭で八咫烏を伏見稲荷まで走って追いかけるシーンがありますが、どまんなか(京都市中心部)から伏見稲荷までどんだけあると思ってんねん!?と心で突っ込んでしまったというか。伏見はもう別の街やで!(苦笑)あと、SFとしても、イレギュラーの存在をシステムが消そうとするなら、なぜ最初にシステムは10年後の世界から来たナオミを第一に消しに来なかったのか?ナオミが管理者権限でそれを防いでいたなら、その説明が欲しかったです。何にせよ説明不足の分ご都合主義に見えてしまったのが残念でなりません。
ツッコミどころも多数有りましたが、全体としてはとても満足出来た作品でした。だってこの作品は一行瑠璃にどれだけ萌えるかの作品なのだから。その意味では満点つけても良いのかなと思います。(笑)
最後に。映画を観ながら何度も瑠璃が「けいおん!」のあずにゃんに見えて仕方がなかったです。同じキャラクターデザインだから仕方がないけど。(笑笑)