「『サマーウォーズ』は偉大だった」HELLO WORLD 漫遊人さんの映画レビュー(感想・評価)
『サマーウォーズ』は偉大だった
率直に言えば、細田守監督の『サマーウォーズ』は偉大だったなあ、と。
仮想空間と現実世界の入れ子構造的な攪乱、というのが物語上のコンセプトで、これが物語後半の狐面たちの悪夢のような集団襲撃(これは一見の価値あり)のリアリティを支えていて、この映画の目的のひとつはそれを描くことにあったのだろうだから、そういう意味では達成感はあるのだろう。ただ反面、物語の整合性が、あまり説得的でなくなっているというか、おざなりになっているというか。
たとえばクライマックスのワンシーン、ナオミが犠牲になるけれども、それまでの物語が示してきた世界設定からは、直実が犠牲になるのが合理的なはず。……実はこれが、ラストシーンのサプライズにつながる伏線になっている、と思えなくもないのですが……正直、ラストシーンを見て、思わず吹き出してしまいました。まあ、ずっこけたというか。
物語の前半、ナオミが明らかに矛盾した言動をしているのですね。これで、ナオミのうさん臭さが露わになる。このさりげないシークエンスは上手かったので、物語的に洗練されていると思ったのですが。
『サマーウォーズ』は、仮想空間が現実世界にクライシスを徐々に及ぼす展開ですが、両者の境界ははっきりしている。境界を超えてクライシスが発生し拡大するという展開が、のっぴきならないサスペンスを醸成していた。これに対して『HELLO WORLD』は、境界の融解が、物理的な恐怖感を伴って、主人公たちのアイデンティティーを揺るがしてくる。前述したように、境界の融解という事態が、怪物たちの悪夢のような物理的攻撃を可能にするという物語的設定は、観客に手に汗を握らせるが、主人公たちの存在の核のようなものが、入れ子構造的世界に、雲散霧消してしまったようで、そうなると恋愛の物語も、実存性を薄められたものにならざるを得ない。
『HELLO WORLD』の京都は、『サマーウォーズ』の信州上田よりも泥臭くなかった、ということかな。