劇場公開日 2019年10月11日

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「Beatlesファンのツボを心得てる」イエスタデイ momotaroさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 Beatlesファンのツボを心得てる

2025年10月4日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

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まず最初に僕はビートルズの曲ならソラで300曲ぐらいは歌えるぐらいのビートルズマニア?!ですが、この映画は大満足でした。

以降ネタバレ注意

まず最初に、タイトル及び、主人公ジャックが最初に演奏した曲が「イエスタディ」なのが、この上なくグッときましたね。。。
他のレビューでは全く触れられて無かったので、あえて長文で書かせていただきますが、
そもそもこの「Yesterday」という曲は、ポールマッカートニーが寝てるときに突然このメロディが浮かんできて、寝起きで慌てて書き留めたという逸話がある曲なんです。

※ポール曰く、「あまりに自然に浮かんできたものだから、誰かの曲のメロディなんじゃないかと思って皆に聞かせて回ったけど、誰もこのメロディを知らないみたいだったから、僕のオリジナル曲だと認識した。」と述べている。

その誕生の仕方と、曲自体のあまりの完成度の高さから、
この映画の根幹である、「実は違う世界線(パラレルワールド)のアーティスト曲の盗作なんじゃないか?」と妄想できてしまう条件が既にこの曲には揃っているんです。

なので、よくあるありきたりな脚本とビートルズを結びつけたんではなく、絶対にこの曲ありきで、タイトルも絶対に「イエスタディ」でなければいけないんです。

ジャックがいきなりイエスタディを歌い出した瞬間に、その監督の想いが伝わってきて、いきなり号泣してしまいました・・・

ちなみに「なんでイエスタディを弾いたのか?」 それにもちゃんとした理由があって、エリーがジャックにプレゼントしたギターは「Martin CEO-7」 ビートルズ初期にジョンとジョージが愛用していたモデルはGibson J-160Eだが、そのギブソンを彷彿とさせるボディ形状になっていて、定価50万円以上する。

ジャックはそんな高価なギターをプレゼントされたことに驚きつつ、それならばと「良いギターには良い曲を」と言ってビートルズ曲のイエスタデイを演奏することを思いついたという流れ。

他にも、歯医者が「With A Little Help From My Friends」とつぶやいて、ジャックが「そうか、この曲もあったよな!」と脚で喜びを表すシーンなども思わずニンマリしてしまいます。(字幕版ではわかりにくかったが、吹替版だとめっちゃ分かりやすく説明されてた。ただ私は演技が自然な字幕版のほうが好き)

そして、世界線が切り替わる瞬間に流れる曲が「A Day In The Life」なのも、まさに曲の構成である、ジョンとポールがそれぞれ全く独自の曲を作り、オーケストラを挟んで無理やり一曲にしてしまうという、60年代当時では絶対に考えられなかった超絶荒業を施した曲なので、この場面は絶対にこの曲でなければいけないんです。

それを監督は本当によくツボを心得ている。

みなさんが書いてる曲のアレンジについてですが、僕の個人的な感想だと、
ジャックはあくまでビートルズマニアでもなく、ビートルズの曲の表層を真似しているだけなので、本家にはちょっと劣るアレンジをあえてしている感じがしました。

そもそも、ビートルズはメンバー全員が天才という奇跡のグループだからこそあの数々の名曲が産まれたわけで、ジャック一人の音楽的素養や弾ける楽器や演奏技術のバリエーションでは超えられないのは当たり前。
音楽というのは、生まれ育った場所やミュージシャン仲間からの影響やスタッフやプロデューサーに支えられて産まれるものだから、本家に劣るのは当たり前。
それを差し引いてもビートルズの曲そのものが持つエネルギーが十分魅力的で、世界中で評判になってもまったく違和感がない、という点も、このビートルズという題材を選んだ特異性ですね。

実際ビートルズの曲は世界一カバーされており、シンプルな構成なのに、時代に関係なく誰が演奏しても良い曲がとにかく多い、世界の誰も真似できない特異性ですからね。

喩えて言うと、「パッヘルベルのカノン」はどんな変わったアレンジの曲を聴いても耳心地が良いのと一緒。

次に、ジャックがどんなにチヤホヤされても常に「俺の曲じゃないのに‥」と戸惑っているのもいいですね。
調子に乗って自己主張するようなキャラだったら嫌いになってましたが、ちゃんとビートルズに敬意を評して、「ヘイ・ジュード」や「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」や「ペニーレイン」など、明らかにジャックがそのまま作詞したにしては無理がある曲に関しても「原曲そのままをきちんと演奏する」というルールを頑なに守ろうとする姿勢でいるのも好感が持てました。

「ヘイ・デュード」に無理やり改名させられてむちゃくちゃ戸惑ってるシーンはファンには爆笑ポイントでしたねw  そりゃビートルズの存在やタイトル名の変化「ジュリアン→ジュールズ→ジュード」になった経緯を知らない人からしたらそっちのほうが自然だよなと。

とにかくこの映画の良いところは、登場キャラクターそれぞれが「本当にビートルズを知らない世界線なんだな」とリアルに思わせてくれるところですね。 ご都合主義で妙に物わかりのいい登場人物がいないところ。

両親に初めて「Let It Be」を披露する時とか、ドサ回りやカフェやテレビで演奏してもなかなか世間に認知されないところも、「多くの人は楽曲の重要性をバックボーンで判断してる 未知の音楽をすぐ理解できる人なんてごく少数」という現実をちゃんと表していてよき。

「ア・ハード・デイズ・ナイト」のイントロ音「ジャーーーーーン!」が、本当は12弦ギターと6弦ギターとベースとピアノを同時に鳴らしている音で、ギター一本で無理やり再現するとしたら「G7sus4」なんだけど、それもジャックは間違って適当なコードを鳴らしているのもリアルで良いですね。

監督ならそんなこと絶対に知ってるくせに、レコードを数枚持ってる程度でしかないジャックが正解のコードを知ってる訳がないと、わざと間違えさせているところがほんとリアル。

あと、ジャック自身、ギターストロークとあんまり上手くないピアノしか演奏できないのに、無理やりエリナーリグビーを演奏しようとしてるところ。

クラシックの素養もなく、歌詞もうろ覚え、ジャックが演奏するには相当難易度が高いにもかかわらず、ボツにせず一生懸命この世界線の人たちにビートルズの曲を伝えるんだと頑張ってる姿を見せることによって、本人の頑固さ、真面目さを伝えており、ジャックの童貞っぷりと全体のストーリーとが無理せず繋がる脚本になっていて、とても良いです。

意識して最初から見直すと、ジャックのセリフがところどころで、「曲は最高なのにジャックマリックじゃ駄目なんだ」 というように、あくまで自分を全面に出すんじゃなくて曲を世の中に広めるんだという考えで一貫してるのが分かります。

ルーフトップ・コンサートの原作再現をする流れも、ストーリーが自然に流れて繋がっていて気持ちよかったです。 ちなみにロッキーが散々感動のシーンで長台詞を喋ったあと出口を間違えるシーンも、実はこれも含めて原作再現なんですよ。 実際にビートルズメンバーも建物が入り組んでてドアを間違えて軽く迷子になってます。

ちなみにラブストーリー自体はオマケみたいなもので、本当のヒロインはロッキーですよ。

たぶん批判している人はこの辺はスルーしてるんだろうな、他の方のレビューでは「期待して観たがガッカリした」的なコメントもありましたが、あくまで僕個人としては大大大満足な内容の映画でした。

既に映画をご覧になった、僕と同じようなビートルズマニアの方々の言葉を代弁できていたら幸いです。

個人的にはビートルズファン全員に観てほしい、本気でオススメの映画です。

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momotaro
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