「ラブコメの名手と映像の魔術師によるビートルズ讃歌」イエスタデイ kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
ラブコメの名手と映像の魔術師によるビートルズ讃歌
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」では、過去に戻ったマイケル・J・フォックスがダンスパーティーで披露する「ジョニー・B・グッド」に観衆が唖然とし、やがて熱狂する、ロックンロール前夜を見せた。
本作「イエスタデイ」は、ある日突然全世界でブラックアウトが発生し、気がつくとそこはビートルズが存在しなかった世界に変わっていた…という話。
小ネタとして、なくなったのはビートルズだけじゃなかったり、売れないミュージシャンの主人公がビートルズをパクりまくるのだが、ちゃんと思い出せない曲もあったりする。
ダメ男の似非サクセスストーリーだから、最後は痛いしっぺ返しに合って、人生を見つめ直すお話かなぁと思って観ていたが、リチャード・カーティスの原案・脚本だけに、結局は王道ラブコメディだった。
ダニー・ボイルのめくるめく映像テクニックが、物語を小気味よくトントンと進めてくれる。
そして、そこにビートルズ愛が振りかけられているという寸法だ。
主人公ジャックを演じたメヒーシュ・パテルという役者はよく知らないが、働いているスーパーの経営者に髭面や身なりを批判されたり、彼をスカウトした女エージェントにルックスをこき下ろされたりするのだから、あの風貌が良かったのだろうけれど、相手(エリー)役のリリー・ジェームズと釣り合わない印象が最後まで拭えなかった。
ジャックとエリーの幼馴染みの恋は果たして成就するのだろうか、というラブコメディのテーマが前半はほぼ隠されている。
ジャックはエリーの気持ちどころか自分の気持ちにさえ気づけず、
エリーは自分から離れては何度も追いかける。
全くもって優柔不断な幼い二人の関係をもどかしく感じるのは中盤から。
リリー・ジェームズは、むしろシンデレラのときよりもチャーミングで、演技面でも順調に女優のステップを上がっていると感じた。
グラミー賞アーティストのエド・シーラン が「君はモーツァルト、僕はサリエリ」と負けを認める場面は、ご本人がこれをやるのかと驚いたが、彼はサリエリのようにモーツァルトに嫉妬の炎を燃やす訳ではなかった。
ジャックを監察するように見ている謎の男女の存在や、ジョン・レノンの扱いは意表を突いていて、ビートルズへのリスペクトが現れている。
クライマックスのオンステージ&バックステージは、派手に盛り上げてスピーディーに大団円に持っていく上手い演出。
ただ、ジョン・レノンから受けた啓示が引き金となっての行動だとして、本当に大切なもの・大切な人・大切な事に目覚めたという表現が弱く、お決まりの結末を見せることでなんとなく観客をいい気持ちにして終わってしまった感じがした。
芸能プロダンションのエージェントをノリノリで演じたケイト・マッキノン姐御が良い仕事をしている。
エドシーランとの勝負の時、もっと盛り上がって終わって欲しかったですね。
ジャックが撃たれる、というのは、ジョンが登場してからそう思いました。
まあ、割と普通なオチだったのが少し残念でしたが。