「格差社会風刺ホラー」アス REXさんの映画レビュー(感想・評価)
格差社会風刺ホラー
アメリカの陰謀論に地下は付き物。
宇宙人の秘密基地がある、ホワイトハウスにつながっている、金持ちたちが子供を拉致してペドファイルにいそしんでる、などなどの都市伝説には枚挙に暇がない。しかし、アメリカならなんでもありえそうだ…と思わせる、この廃棄された地下坑道に着目したのはなかなか説得力ありだと思う。
ハンズ・アクロス・アメリカという善意活動の下で、えげつない人体実験が行われていた。
「私たちはアメリカ人」と答えるアデレードの台詞には露骨とも言える格差社会への風刺が見て取れるけど、古典的SF「タイムマシン」の地上人エロイと地下人モーロックも想起させる。
テザードと呼ばれるクローンに魂をつなぐ技術はいったいどうやって行おうとしたのか?
クローンはどのタイミングで作ったのか?
産後すぐなら病院の産科と結託して作ったのか?という細かな突っ込みは控えたい。
結局、権力者は上の人間を操るつもりがテザードがオリジナルに操られてしまったが故に失敗したということなのだろう。
その誕生理由から上流社会のテザードはおらず、途中放棄のため全国民分のテザードはいないのだろうから、彼らが手をつなぎ蜂起したとはいえいずれ軍などに粛清されていくと思われる。
そこまで考えたとき、もしこれが何度でも権力に立ち向かえというメッセージまで含まれてると考えるとしたら、ちょっと監督は欲張りすぎだな。
入れ替わりが起きていたことで、テザードの中でアデレードだけがなぜ話すことができたのか、レッドがなぜ失踪後言葉を失っていたのか(言葉を学んでおらず話せなかったから)、息子ジェイソンはなぜプルートを操れることができたのか、などなどの伏線は回収される。
<オリジナル> →<テザード>
アデレード → レッド
ゲイブ → アブラハム
ゾーラ → アンブラ
ジェイソン → プルート
また、序盤から登場する謎の男が持っていた看板や、時計の表示「11:11」など度々現れるエレミヤ書第11節第1章。 これは聖書の引用で、 「それゆえ主はこう言われる、わたしは災を彼らの上にくだす。彼らはそれを免れることはできない。彼らがわたしを呼んでも、わたしは聞かない」という意味。まさにテザードたちがオリジナルに対して報復を行うことを示唆している。
父親ゲイブがどこかとぼけた味を醸し出していて、恐怖を和らげてくれた。アデレードもプルートも、隣人の双子も怖すぎますって。
昔狼に育てられた少女の実話があったが、人間を無教育に放置するとああも野蛮になってしまうのだろうか。
まさにテザードは教育を受けられない人たちの象徴でもあるのだろう。
一方通行のエスカレーターをアデレードが上がってきたのなら、テザードたちだっていつでも逃げていけたのに、それさえも思いつくことができなかった。それは貧乏人がいつまでも搾取され、日の当たる場所に出ていけない世の中を示しているようだ。