「近い将来、国会議員になる望月記者が想像できる。」新聞記者 ぐちたさんの映画レビュー(感想・評価)
近い将来、国会議員になる望月記者が想像できる。
東京新聞の望月衣塑子記者は菅官房長官の記者会見での質問で有名になり、そのベストセラーを原案にしたということであるから、この映画の政権に批判的な立ち位置は明確である。
そして、実際に起きた事件を題材として、政権は悪、政権が隠す真実を暴こうとする記者は善という設定で物語は進む。わかりやすい。
しかし、設定はわかりやすくても、大きな違和感がいくつもあったので書く。
一つ目、内閣情報調査室のリアリティのなさ。
多くの公務員が働く職場であるが、東都新聞の編集部とは全然違い、室内も廊下も真っ白でかなり薄暗い。各職員の机の上にはパソコンだけがあり、書類はなくてすっきりしている。皆がスーツの上着をきちんと着て、パソコンに向かってツイッター上で世論操作をする役所ってありえるのか。ダークなファンタジーのようでリアリティが感じられなかった。
二つ目、新聞記者の仕事の描写。
シム・ウンギョンが演じる吉岡記者は、公開情報をネットで検索して、ツイッターで自分の意見を発信する。喫茶店で役人に質問をする場面もあったが、大学の獣医学部新設に隠された真実は、役所内の人間に機密書類を盗み見させて容易に全貌が判明する。そこが政権の悪い企みが明確になるポイントとされているのであるが。記者の仕事はその程度のものか。もっと歩いて多くの人に当たって稼ぐのではないか。
三つ目、フィクションでありながら現実との境界があいまいであること。
吉岡が働く新聞社は東京新聞ではなく東都新聞であるが、讀賣新聞や朝日新聞は実名が出るし、望月記者や文部科学事務次官が実名で登場する。その必要性がわからない。
要するに、政権は国民に真実を明らかにしない、政権は悪だという望月記者の事実認識と見解を、現実とフィクションをまぜこぜにして映像化したということだろう。
配給がイオンエンターテイメントともう1社であり、イオンの経営者が旧民主党の岡田克也代表の実兄であることを考えあわせると、近い将来、岡田代議士に近い国会議員になっている望月記者の姿が想像できる。