「流れに身を任せてはいけない」新聞記者 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
流れに身を任せてはいけない
第43回日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞作。
Amazon Prime Videoで鑑賞(レンタル)。
原案は未読。
正義と信念を懸けて、真相を暴こうとした新聞記者。職務に葛藤しながらも、藪の中の真実に迫った官僚。両者の戦いを通して、日本社会とメディアの深い闇に迫ろうとした作風は、忖度や自主規制が蔓延する風潮に風穴を開けるかの如く、孤高ながらとても勇気に溢れていると思いました。
反政府ととられかねない内容ながら、オファーを受けた俳優たちの本作にこめた想いが画面越しに伝わって来ました。杉原役の松坂桃李なんて人気・実力共に絶好調な時なのに。
吉岡役はことごとく断られたため、なんのしがらみも無い韓国女優シム・ウンギョンが務めたところに残念な気持ちを抱かざるを得ず。実はそう感じたのも印象操作の賜物か?
鑑賞中、中学1年生か2年生の国語の授業で、「メディア・リテラシー」と云う題名の文章を習った記憶が蘇りました。
その時初めて情報と云うものを意識し、ひとつの事柄に様々な捉え方が存在していることを認識した覚えがあります。
SNSが普及した今こそ、垂れ流される情報を取捨選択し、何が正しくて何が間違っているのかを判断することが大切ですが、それ自体が操作されたり故意に流されたものだったとしたら、何をよりしろに自分の考えを表明すれば良いのか?
とにかく、提示されるものについて考えることをやめてはいけないと思いました。すぐに鵜呑みにするのではなく、まずなんでも疑問を持ち、考える。あらゆる方向から物事を確認して自分なりの意見を持つ。ありふれたことかもしれないけれど、そのことの大切さ、重大さを痛感させられました。
※修正(2024/06/24)
Kazzさんのコメント拝読すると、高橋和也夫妻、家族の辛さが蘇って来ます。周りから非難されても退職して生き延びる道を見る事はできなかったのか、と。
と改めて思い起こさせていただきました。
だから松坂桃李、裏切るしかなかったのですね。
若い頃に抱いた理想を貫ける人は少ない。概ね忘れてしまうのだろうけれど、忘れずギャップに苦しんだ人が高橋和也。
守るべきものがある松坂桃李が、先輩高橋和也の無念を晴らすはずが、パワーバランスに屈するのは必然だったかもしれません。
今思い出しても、辛く苦しい物語展開です。
高橋和也の妻西田尚美が夫を助けられなかったことを悔やむのも、いたたまれなかったです。