「“今”でなく、いつ観ても普遍的な面白さのある政治サスペンス映画。」新聞記者 ウシダトモユキ(無人島キネマ)さんの映画レビュー(感想・評価)
“今”でなく、いつ観ても普遍的な面白さのある政治サスペンス映画。
政治サスペンス映画としてふつうにとても面白かった!
安倍内閣のキナ臭さが何かと話題にされる参院選の時期に公開された映画として、「今、観られるべき映画!」なんて言われたりもしている作品だけど、そういうタイムリー性で観られるよりも、普遍的な社会派サスペンスのハードなやつとして観られても良い作品だと思う。
役者陣が良かったねー!田中哲司が江守徹に見えてくる貫禄の悪役ぶりにシビレた。
松坂桃李は「ラストのあの感じ」がすっごく良かったし、シム・ウンギョンのキャスティングにもすっごく納得感があった。「日本のいびつさを、ちょっとだけ外れた目線から見る」という立ち位置で、観客にとって良いガイド役になってたような気がする。女優としても確かな力量を感じた。高橋和也も良かったなぁ。
藤井道人監督作品としては、僕は『光と血』以来なんだけど、その時に良いなと思った「色彩と光の観心地の渋カッコ良さ」は本作でも健在だった。全体的に“薄スモーキー”な色合いというか。逆光の表現も好きなところ。
クライマックスで、主人公たちは大きな決断をし、ある行動を起こす。物語的にはテンションがアガるはずの場面なんだけど、僕は不安で怖かった。それはラストの展開を予感したわけではないし、劇伴や演出がそう感じさせるものだったのかもしれないけど、なんだか「行け!やったれ!!」というよりも「ヤバイヤバイ、大丈夫なの?やめといた方がいいんじゃないの?」っていう気分にさせられた。怖がりながら、「ああ、この怖さって日本人的な恐怖感だな」って思いながら怖がってた。
ラストはね、怒りも恐怖も、悲しみもないよ。仕方がないんだ。強い弱いではなく、人が何かと戦おうとするとき、良くも悪くもそれを止めるのは、家族の存在なんだよね。