「久々の骨太のポリティカル・スリラー」新聞記者 ごいんきょさんの映画レビュー(感想・評価)
久々の骨太のポリティカル・スリラー
「新聞記者」は日本映画では久々の骨太のpolitical movieだった。日本映画の秀作は人間の内面を描いているものが多くて、社会全体の問題をあつかうことは少ない。たとえば、「夜空はいつでも最高密度の青色だ」は大好きな傑作だが、背景に現代社会の持っているさまざまな問題は描かれていても、社会問題が正面から描かれるわけではない。見ている人間には格差社会という日本の現実がひしひしとは伝わるわけだが、映画のテーマではない。今年一番の秀作だと思っている「愛がなんだ」や「町田君の世界」の社会性はもっともっと低い。
日本映画のレベルは決して低くはない。しかし、エンターテインメント性と社会性政治性を兼ね備えた傑作というとほとんどない。韓国映画だと、たとえば「タクシー運転手」などはその両方を兼ね備えた大傑作だ。ところが日本映画でそういう作品があるかというと、なかなか思い浮かばない。そういう意味では、この映画はその両面を兼ね備えた久々の傑作だ。よくここまで思い切って描いてくれた、良く公開にこぎつけた、メジャーな役者さんたちがよく出演してくれたと感動した。
この映画に描かれている出来事をフィクションだと思うか、現実にもありうることだと感じるかは人それぞれだが、そういう問いかけを投げつけてくれるだけでもすごいと思った。
この映画を見終わった後に爽快感はない。告発する側の一応の勝利という決着をつけることをしていない。そのあたりに、さらにこういう映画を作りにくくしている日本の政治の現実があるのかもしれない。
コメントする